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獣人達の国

169:─私の負けだ

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「ではその言葉、思いにふさわしき実力を見せてもらおうか」

 コーキスが改めて武器を構え、その爬虫類のような瞳を鋭くして俺を見据える。

 お互いが武器を構え睨み合いが始まるが、俺から動くことはできない。なにせ俺はコーキスにとは比べ物にならないほど弱い。だから防御に専念し、カウンターを狙うしかないのだ。

 コーキスも先ほどまでの打ち合いでそれは理解したのか、自分から動くことにしたようだ。

「いくぞっ!」



 ──だが、所詮は意気込みだけでどうにかなるようなものではない。
<収納>を使わなくても、『宝』を使えばなんとかなるが、それだと認めてもらえないだろう。それは武器のおかげであって俺の力じゃない、って感じで。

 まあ今もバレない程度に幾つかの魔術具をつけて防御を固めたりしてるんだけど、流石に剣や盾なんてわかりやすいものを使ったらバレるだろう。

「どうした! 先程の言葉は口だけなのか⁉︎」

 そうだよ!

 いや、口だけのつもりはないけど、発言に実力がついてきていないのは事実だ。



「つまらんな。やはり、先程のは口だけであったか」

 しばらく打ち合ったが、意気込みだけで結果は変わるはずもなく、寧ろ先ほどよりも本気を出したコーキスを相手では簡単に打ち負けてしまった。

 現在、俺は膝こそついていないものの、息も絶え絶えになって全身に傷ができている。

 そんな俺を見ながら、追撃をかけるでもなくコーキスは話す。

「そもそも、そのような武器で戦おうとするのが間違いなのだ。本当に勝つ気があるのなら、もっと良い武装を整えるべきであろう。せめて魔剣の類でも用意するべきだ」

 コーキスはそう言うが、魔剣なんて使っても良かったのか? それならいくらでも持っているんだが。

「……なんらかの特殊な力のある武装を使っても良かったのか?」
「当然であろう。それを用意するところも含めての実力だ。……今更言ったところで遅すぎるがな」

 ……そうか。使って良かったのか。
 まあ使ってはいけないって言うのは俺の勝手な考えだったんだけど……。
 でも、そうか。なら……

「……もう一度。手合わせしてもらう」
「やめておけ。いくらやったところで、力の差は歴然だ。聞いた話ではすぐに死ぬようなものでもないのであろう? なれば、力をつけてまた挑みに来ると良い。その時はしかと挑戦を受けよう」

 俺は既に終わった気でいるコーキスに向かって剣を投げつける。

 当然ながら、その程度の不意打ちではまともな効果などない。コーキスは若干驚きながらも、飛んできた剣を容易く弾いてしまった。……一応全力で投げたんだけどな。

「どう言うつもり──」

 突然の事に驚きと怒りを孕んだ声を出したコーキスだが、その言葉は途中で止まった。

「貴殿、その手に持っているものはどうした」

 剣を投げつけた一瞬に、俺は<収納>から代わりの剣を取り出していた。
 取り出したのは、さっきまで持っていたものとは比べ物にならないほど上質な剣。その剣身からは強い力が感じられる。

「……さっきまでは期待外れみたいで悪かった。道具の力を使っちゃいけないと思ってたんで使わなかったんだ。でも、『宝』を使っていいんならもう少し楽しませてやれると思うぞ」

 そう言うと、おれは先ほどまでとは違って自分から走り出した。凄い剣を持ったところで、それを扱う技量は変わったりはしない。
 だが、この武器は自分から攻めた方が効果があるのだ。

 おれはコーキスに向かって走り、剣を振り下ろす。
 剣はコーキスに受け止められてしまうが、これでいい。

 剣を受け止められ、弾かれた俺は体勢を崩してしまい、そこに追撃をしようとコーキスが剣を振るう。
 だが、その瞬間、コーキスはとっさにその場から飛び退いた。

「チッ!」
「……今のは、剣の力か?」

 そんな呟きを無視して、俺は崩れたように見せかけた体勢を戻してさらに斬りかかる。
 振られた剣は、だがまたもコーキスに受け止められてしまう。
 しかしそのままでは終わらない。
 今度は一度だけではなく何度も剣を振るう。その全てが受け止められてしまうが、コーキスは反撃をしない。できない。
 おそらく俺の剣の効果が分からないから踏み込んで来れないんだろう。
 だが、それでは俺の思惑からは抜け出せないぞ。

 何度も剣を振ったが、最初以外はまともに効果が発揮されていない。
 それによって覚悟を決めたのか、コーキスは俺の剣を弾いて踏み込んできた。

 コーキスがまともに攻撃に移れば、俺なんかすぐにやられるだろう。だが──

「ぁああああああ!」

 雄叫びというには不格好すぎるそれ。
 だが、そこに込められた覚悟を感じ取ったのかコーキスは一瞬の怯みを見せた。

 俺は持っていた盾を捨てて剣を両手で持つと、上段から思い切り振り下ろした。

「ぐううぅっ」

 この試合初めてのコーキスの苦悶の声。
 だが、俺の攻撃はこれで終わりではない。

 途端、見えない何かが、コーキスの体を切り裂いた。

「なに⁉︎」

 その後も、幾つもの何かが切り裂き続ける。
 怪我をしたところでその傷は瞬く間に治っていくが、無限の回復なんてできるはずがない。いずれその力は尽きるだろう。

 たまらずにその場から離れようとするコーキスだが、見えない何かはその背中を切り裂く。

「ぐあっ!」

 現在なにが起こっているのかというと、わかっていると思うが剣の力だ。
 この剣の能力は、振った剣の軌跡に空気を圧縮して作られた見えない刃が時間差で追撃するというものだ。
 時間差は発動時に使用した魔力によって決まるので使い方次第では、今のように時間差で発動させたりできるし、まとめて発動させたりもできる。──こんな風に!

「ハアアア!」

 さっきから何回も振り続けていた剣。その能力の発動が全て同時になるように設定されて振られた剣。
 その結果、どうなるかと言ったら……

 バキンッ!

 コーキスの持っていた剣は見事に砕け散ってしまった。

「なっ⁉︎──ガアアアア‼︎」

 そして剣のないコーキスの体に、俺の剣が振り下ろされた。

 まともに受けたコーキスは、その後も見えない刃に切り裂かれ続け、倒れることもできないでいる。まるでマリオネットの不格好な踊りを見ているかのようだ。

 魔剣の効果が終わると、バタリと倒れるコーキス。

 ……死んでないよな?

 魔剣の発動は途中で止めることができないから見ていることしかできなかったが、無事だろうか?

 だがそんな心配は意味なかったようで、コーキスは何事もなかったかのようにムクリと起き上がった。その体には身につけていた鎧こそ壊れたままだが、すでに傷など消え失せていた。

「……良い刃であった」

 まだ戦うのかと思ったが、コーキスはそれだけ言うとくるりと身を翻した。

「武器がなくてはこれ以上は戦えぬ。貴殿を認めよう──私の負けだ」
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