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第二章 精霊イベント

70.NPC、小麦畑に行く

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「ここが小麦畑で有名なところだったはずだが……」

「ここですか?」

「ああ」

 バビットに小麦畑があると言われたが、どこにも小麦畑が見当たらない。

 この時季は緑から黄色に小麦畑が色を変えており、その色味が綺麗だと話題になるぐらいらしい。

「きょむぎ……?」

「小麦にしては何か動いているような気がするけど……」

「ヒイイィィィ!?」

 チェリーは急に俺の後ろに隠れた。

「どうしたんだ?」

「ああああ、あれバッタの大群よ!」

 よく見ると小麦にバッタのようなものが、びっしりとついていた。

 いや、あれがグリーンリーパーってやつか。

 どこかバッタとゴキブリが合体したような見た目をしている。

「ヒィヤアアアアア!」

 俺達に反応して数匹寄ってきた。

 妹の咲良も俺がセミを持ってきた時は、チェリーみたいに逃げ回っていたな。

「お兄ちゃんー!」

「はいはい!」

 俺はグリーンリーパーを持っている短剣で切り落とす。

「おおおお!」

 そんな俺を見て、ヴァイルは拍手をしていた。

 どうやらお兄ちゃんは弟にかっこいい姿を見せられたようだ。

「やっぱり規格外になっていたか……」

 一方でバビットは頭を抱えていた。

「おい、兄ちゃん!」

 そんな様子を見ていたのか、近くにいたおじさんが声をかけてきた。

「どうしました?」

「あのグリーンリーパーを倒せるのか?」

「倒せるかって……魔物だから倒せます……よね?」

 俺はバビットを見ると、横に首を振っていた。

 おじさんも俺の言葉に驚いている。

「グリーンリーパーは魔力でしか倒せない魔物だから、短剣なんかで倒せないはず……」

「えっ……? 今短剣で真っ二つになりましたよ」

 俺はグリーンリーパーを鑑定士スキルを使って見る。

 確かに説明欄に魔力を多く含み、逃げ足が速いと書いてあった。

 ただ、剣で切れないとは書いてないぞ?

「普通はあの速さに目が追いつかないはずだ。それに魔力で覆った甲殻が邪魔をしているはずだぞ」

 ん?

 説明欄に魔力で覆われた甲殻があり、魔法でしか倒せないと追加で書かれていた。

 鑑定士の勉強のために本を読んだが、そこに書かれていない情報はあとで追加されることを今知った。

 だが、なぜ俺だけ倒せたのだろうか。

「お兄ちゃんにはグリーンリーパーの動きが見えるの?」

「見えるってそこまで速くないぞ? この間悪党を地面スレスレで落とす遊びの方が速かったぞ?」

「きちく!」

 ヴァイルはまた俺のことを鬼畜と言い出した。

 別に鬼畜でもないと……バビットとチェリーも大きく頷いている。

 どうやら鬼畜がやる遊びだったようだ。

 動体視力も良くなるし、MNDが上がりそうだったけどな。

「兄ちゃん、よかったらグリーンリーパーを倒してくれないか?」

「倒すって言っても、すごい量だけどな」

 小麦畑は町の奥から外にかけて広がっている。

 そのほとんどにグリーンリーパーが付いているってなると、さすがに一人でどうこうできる問題ではない。

 ここは勇者に任せた方が良いと思う。

 せっかく精霊の卵をもらったんだろ?

 俺は卵ももらっていないからな。

「勇者に――」

「ちゃちくー」

 断ろうとしたら、ヴァイルが目を輝かせて見ていた。

 ああ、そんな目で見られたら断れないじゃないか。

 お兄ちゃんは弟にかっこいい姿を見せないといけないからな。

「はぁー、やれるだけやってみます」

 不本意だが俺は短剣を構える。

 そもそも俺じゃなくても倒せそうな気がする。

「おーい、バッター!」

「……」

 グリーンリーパーはその場で止まって、俺に向かってくることもなさそうだ。

 どうやったらあいつらがこっちに来るのだろうか。

 俺が近づいて一匹ずつ倒すのはめんどくさいしな。

 なんて言ったって効率が悪い。

 確かチェリーが叫んだら、こっちに飛んできたはず。

「きゃあー! 怖いわー!」

 あれ?

 こっちを見ているが、飛んでくる様子はないぞ。

「あいつ何やってるんだ?」

「ねーねのまねっこ!」

「へっ!? 私あんなに棒読みで気持ち悪くないよ」

 おいおい、なぜか俺の悪口が聞こえてこないか?

 せっかくの家族旅行なのに、虫退治って普通に考えておかしいからな。

 ここはみんなで協力して――。

 俺の味方はいないようだ。

「くそ、こんなバッタなのかゴキブリなのかわからない害虫なんて知るか!」

 俺は諦めて家族の元へ戻ることにした。

 だが、みんなして俺から遠ざかっていく。

「さすがに逃げることは……」

――バタバタ

 俺の背後から雑音が聞こえてくる。

 今はそれどころじゃないからな。

 みんなして俺を置いて逃げていく。

 早く追いかけないと、俺だけ置いてかれる。

 ただ、音がだんだんと近づいてきてムカついてくる。

 まるで俺達はゴキブリではないと言っているようだ。

「あー! さっきからバタバタうっせーんだよ!」

 俺は短剣を強く握りグリーンリーパーの元へ駆け込んでいく。
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