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第19話
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思わず叫ぶと一瞬、サイラスと目が合ったような気がした。
その後が見ていられなくて目を伏せると観客からは悲鳴ではなく歓声が上がった。
「え、」
その違和感に再び闘技場内に目を向けると、サイラスはもうそこにはいなかった。
彼女はまるで剣舞を思わせるような滑らかな動きで確実に相手の隙を突く攻撃を間髪入れず繰り出していた。
攻防は逆転しており、今はサイラスが優位に立っている。
護衛も攻撃すればカウンターが飛んでくることを察しているようで苦労しているように見えた。
__綺麗だな
舞うかのように剣を振るう姿はまるで踊っているかのようだ。
気品と優雅さを兼ね備えたその姿に惚れ直さないわけがなかった。
「おい!!何してるんだ!!!」
皆がサイラスの剣術に惚れ惚れしているというのに、それに水を差すように怒号が飛ぶ。
全ての観客が睨むように声を荒らげているラズワルドを見るも当の本人は酔っているせいか気づいていない。
あんな無粋な真似すれば今後色んな所でブラックリスト入りすることだろうな。
護衛の耳にラズワルドのことが届いたようで、彼はピクリと肩を震わせると一気に攻撃態勢に入った。
それをサイラスも感じ取ったようで急いで防御の体勢に入る。
「おい、一気に変わったぞ」
「急にどうしたんだ」
剣術の嗜みがあるであろう観客からどよめきが生まれる。
何かに急かされるような戦い方に違和感を覚えたのだろう。
しかし無理して戦い方を変えれば隙は大きく生まれる。
その隙をサイラスが見逃すわけなかった。
「そこまで!!!」
倒れた護衛に乗り、首元に木刀の刃先を向けたところで審判が止めに入る。
どうやって屈強な護衛を地面に倒したのか、それは誰にも分からなかった。
「勝負あり!!勝者、サイラス様!!」
宣言された勝敗に観客から拍手と歓声が巻き起こる。
中心にいるサイラスは勝負がついたというのに真剣な目つきで護衛を見つめていた。
その視線に違和感を感じた時、またも邪魔な声が闘技場内に響いた。
「そいつは俺の愛人にする予定だったというのに!!お前が勝たないと手に入らないだろう!!」
ラズワルドの言葉に辺りはざわつく。
どうやら戦わされていた護衛も詳細は聞いていなかったようで驚いたように目を見開いている。
闘技場内で様々な憶測が飛び合いかけた時、尋常じゃない程の怒りが含まれた低い声が響いた。
「そこまでにしてもらうか、ラズワルド」
いつの間にかラズワルドの元へ移動していたイゴールは喚き散らかしている彼に冷ややかな視線を向けている。
闘技場内は水を打ったように静まり返っており、イゴールの言葉はここに集まる全ての人間の耳に届いていた。
「昨日のパーティーの時からサイラスに目を付けていたかと思えば、まさか引き抜くために護衛と戦わせるとはな。それに先ほど何と言った?自分の愛人にする?お前は妻子にどのように顔向けするつもりなんだ」
「うるさい!!お前だって騎士団長を戦わせたくせに!!」
「この戦いを了承した理由はサイラスが『自分を信じて欲しい』と言ってくれたからだ。この場を借りてサイラスの強さを示した方が色んな意味で牽制になると思ったからな」
先に立ち上がり、倒れた護衛を起こすために手を差し伸べていたサイラスはイゴールの視線に気づいたのか力強く頷いた。
それを確認したイゴールはラズワルドに向き直る。
「お前の言動は目に余るものがある。パーティー主催国である我がエルラント国の騎士団団長_サイラス・アフガルトへの引き抜き行為や様々な不敬に値する行為など数えきれん。よって、」
イゴールは鋭い眼光をラズワルドに向ける。
「ラズワルド、お前は今後一切我がエルラント国の国境を跨ぐな」
イゴールのその言葉には怒りが込められており、遠くにいる観客たちまですっかり萎縮していた。
それほどまでに彼の言葉には殺意に似た怒りが滲み出ていた。
ラズワルドはというと今更自分の失言に気づいたのか、地面に力なく座り込んだまま動かないでいる。
「連れていけ」
イゴールがそう言うと控えていた騎士団員がラズワルドを連れていく。
それは例の護衛も同じようで、闘技場のフィールドに数人駆けつけるのが見えた。
「イゴール陛下」
誰もが黙ってラズワルドに嫌悪の視線を向ける中、ただ1人サイラスが声を上げた。
イゴールは不機嫌そうに観客席からサイラスを見下ろす。
「なんだ」
「……護衛として雇われている彼ですが何やら諸事情があるようです。今すぐ国に送り返すのはラズワルド様だけにしていただけませんか」
まさかの申し出に皆が首を傾げていると大人しく連行されていたラズワルドは急に暴れ出した。
「おい!ふざけるな!!何故ソイツが許されて俺は許されないんだ!!!」
「黙れ。五体満足で帰れなくしてもいいんだぞ」
イゴールの言葉に再び押し黙るも不満そうな表情は隠しきれていない。
ラズワルドが闘技場から連れ出されるのを見送ってからイゴールは再びサイラスを見下ろす。
「ラズワルドがあれだけ取り乱すということは何かあるのだろうな。…分かった、しばらくは城で保護しよう」
「ありがとうございます」
会話を聞いていた騎士団員は護衛の彼に何もせず戻っていった。
その瞬間、闘技場内には割れんばかりの歓声や拍手で溢れ返った。
それはサイラスの戦いぶりに対するものなのか、それとも彼女の慈悲深い行動に対するものなのか、イゴールの優れた英断に対するものなのか。
もしくはその全てに対するものなのかもしれないが、何にせよ観客たちはエルラント国そのものを称賛しているに違いなかった。
その後が見ていられなくて目を伏せると観客からは悲鳴ではなく歓声が上がった。
「え、」
その違和感に再び闘技場内に目を向けると、サイラスはもうそこにはいなかった。
彼女はまるで剣舞を思わせるような滑らかな動きで確実に相手の隙を突く攻撃を間髪入れず繰り出していた。
攻防は逆転しており、今はサイラスが優位に立っている。
護衛も攻撃すればカウンターが飛んでくることを察しているようで苦労しているように見えた。
__綺麗だな
舞うかのように剣を振るう姿はまるで踊っているかのようだ。
気品と優雅さを兼ね備えたその姿に惚れ直さないわけがなかった。
「おい!!何してるんだ!!!」
皆がサイラスの剣術に惚れ惚れしているというのに、それに水を差すように怒号が飛ぶ。
全ての観客が睨むように声を荒らげているラズワルドを見るも当の本人は酔っているせいか気づいていない。
あんな無粋な真似すれば今後色んな所でブラックリスト入りすることだろうな。
護衛の耳にラズワルドのことが届いたようで、彼はピクリと肩を震わせると一気に攻撃態勢に入った。
それをサイラスも感じ取ったようで急いで防御の体勢に入る。
「おい、一気に変わったぞ」
「急にどうしたんだ」
剣術の嗜みがあるであろう観客からどよめきが生まれる。
何かに急かされるような戦い方に違和感を覚えたのだろう。
しかし無理して戦い方を変えれば隙は大きく生まれる。
その隙をサイラスが見逃すわけなかった。
「そこまで!!!」
倒れた護衛に乗り、首元に木刀の刃先を向けたところで審判が止めに入る。
どうやって屈強な護衛を地面に倒したのか、それは誰にも分からなかった。
「勝負あり!!勝者、サイラス様!!」
宣言された勝敗に観客から拍手と歓声が巻き起こる。
中心にいるサイラスは勝負がついたというのに真剣な目つきで護衛を見つめていた。
その視線に違和感を感じた時、またも邪魔な声が闘技場内に響いた。
「そいつは俺の愛人にする予定だったというのに!!お前が勝たないと手に入らないだろう!!」
ラズワルドの言葉に辺りはざわつく。
どうやら戦わされていた護衛も詳細は聞いていなかったようで驚いたように目を見開いている。
闘技場内で様々な憶測が飛び合いかけた時、尋常じゃない程の怒りが含まれた低い声が響いた。
「そこまでにしてもらうか、ラズワルド」
いつの間にかラズワルドの元へ移動していたイゴールは喚き散らかしている彼に冷ややかな視線を向けている。
闘技場内は水を打ったように静まり返っており、イゴールの言葉はここに集まる全ての人間の耳に届いていた。
「昨日のパーティーの時からサイラスに目を付けていたかと思えば、まさか引き抜くために護衛と戦わせるとはな。それに先ほど何と言った?自分の愛人にする?お前は妻子にどのように顔向けするつもりなんだ」
「うるさい!!お前だって騎士団長を戦わせたくせに!!」
「この戦いを了承した理由はサイラスが『自分を信じて欲しい』と言ってくれたからだ。この場を借りてサイラスの強さを示した方が色んな意味で牽制になると思ったからな」
先に立ち上がり、倒れた護衛を起こすために手を差し伸べていたサイラスはイゴールの視線に気づいたのか力強く頷いた。
それを確認したイゴールはラズワルドに向き直る。
「お前の言動は目に余るものがある。パーティー主催国である我がエルラント国の騎士団団長_サイラス・アフガルトへの引き抜き行為や様々な不敬に値する行為など数えきれん。よって、」
イゴールは鋭い眼光をラズワルドに向ける。
「ラズワルド、お前は今後一切我がエルラント国の国境を跨ぐな」
イゴールのその言葉には怒りが込められており、遠くにいる観客たちまですっかり萎縮していた。
それほどまでに彼の言葉には殺意に似た怒りが滲み出ていた。
ラズワルドはというと今更自分の失言に気づいたのか、地面に力なく座り込んだまま動かないでいる。
「連れていけ」
イゴールがそう言うと控えていた騎士団員がラズワルドを連れていく。
それは例の護衛も同じようで、闘技場のフィールドに数人駆けつけるのが見えた。
「イゴール陛下」
誰もが黙ってラズワルドに嫌悪の視線を向ける中、ただ1人サイラスが声を上げた。
イゴールは不機嫌そうに観客席からサイラスを見下ろす。
「なんだ」
「……護衛として雇われている彼ですが何やら諸事情があるようです。今すぐ国に送り返すのはラズワルド様だけにしていただけませんか」
まさかの申し出に皆が首を傾げていると大人しく連行されていたラズワルドは急に暴れ出した。
「おい!ふざけるな!!何故ソイツが許されて俺は許されないんだ!!!」
「黙れ。五体満足で帰れなくしてもいいんだぞ」
イゴールの言葉に再び押し黙るも不満そうな表情は隠しきれていない。
ラズワルドが闘技場から連れ出されるのを見送ってからイゴールは再びサイラスを見下ろす。
「ラズワルドがあれだけ取り乱すということは何かあるのだろうな。…分かった、しばらくは城で保護しよう」
「ありがとうございます」
会話を聞いていた騎士団員は護衛の彼に何もせず戻っていった。
その瞬間、闘技場内には割れんばかりの歓声や拍手で溢れ返った。
それはサイラスの戦いぶりに対するものなのか、それとも彼女の慈悲深い行動に対するものなのか、イゴールの優れた英断に対するものなのか。
もしくはその全てに対するものなのかもしれないが、何にせよ観客たちはエルラント国そのものを称賛しているに違いなかった。
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