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第20話 サイラスside
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あの後、僕は観客たちが自国に帰るまで闘技場を出ることができなかった。
大体は昼から夕方にかけて迎えを呼んでいたらしく徐々に人数が減ってはいくものの、興奮冷めやらない様子で賞賛されたり質問されたりともみくちゃにされていた。
手合わせの様子を見に来ていた兵士からの質問に答えたりもしていたが、日が暮れてきたこともあって宿舎に帰した。
「そろそろ僕も帰ろう…」
例の護衛に関してはカリン先生に手当てしてもらおうよう頼んでおいたため、すでに医務室で治療を受けているだろう。
本当は僕の治療を受けたいが、あれだけ傷だらけの彼の治療に手を焼いているに違いない。
「仕方ない。僕は自分で手当てしちゃおう」
重い体を引きずりながら自室に向かうと、何故か僕の部屋の前にダレス様が立っていた。
「ダレス様?」
「サイラス、今戻って来たのか」
僕の顔を見るなり安堵したように大きな息を吐かれていた。
何かあったのだろうか。
「あの…?」
「色々話したいことがあるのだが、今からだと厳しいか?」
正直厳しいが、僕としても色々聞きたいことがある。
それにどうせ一緒に寝るんだからいいか、とどこか楽観的に考えている自分もいた。
「大丈夫です…と言いたいところですがシャワーだけ浴びさせてもらってもいいですか?汗臭いですし土埃被ってますし」
「分かった」
「…僕の部屋で良ければ入られますか?」
「いいのか!?」
「特に何もありませんがそれでもよろしければどうぞ」
「何もなくて構わない!お邪魔する!!」
若干こちらが引いてしまうほど嬉しそうな顔でダレス様は僕の部屋に入られた。
ダレス様を部屋に招くと彼は興味津々に僕の部屋を見ていた。
「これがサイラスの部屋か。本当に物が少ないな」
「必要最低限の物しかないので散らかりようがないんです」
書物や書類は部屋の端に置いてあり、部屋の造りは至ってシンプルだ。
一刻も早くシャワーを浴びたいためテキパキと紅茶を淹れてダレス様に出してから、クローゼットを開けて寝る時に着ている服を適当に取り出す。
「ではシャワーだけ浴びさせてもらいます」
「慌てなくていいからな」
「お暇でしたら本棚にある本でも読んでくださっても構いませんので」
「分かった」
ダレス様に断りを入れて僕はシャワー室に入った。
汗でべっとりと張り付いている服を脱いでサラシを取っていく。
サラシに血が滲んでいるためどこかから出血しているらしいが傷口が見つからない。
気にしても仕方ないため、とりあえず頭から熱いお湯を浴びるとやっと生きた心地がした。
髪の毛や体を綺麗に洗い、手早くタオルで拭くもやはりタオルに血が付いた。
「えぇ…どこ怪我してるんだろう」
目で見ても分からないため鏡で背中を見てみると背中の一部に擦り傷ができていた。
結構抉ったようでそこそこ血が滲んでいる。
「サラシつければいいか。そのうち治るでしょ」
一応ガーゼを挟んでからサラシを巻いていく。
乾ききっていない髪の毛をタオルで包み込みながら浴室から出ると、ダレス様はソファに腰掛けて本を読んでいた。
「おかえり」
「ただ今戻りました。そのまま本を読んでくださっても構いませんよ」
「いや大丈夫だ。それよりも髪を乾かしてあげよう」
ダレス様はすぐに本を閉じると嬉しそうに自分が座っているソファーの隣を叩いてくる。
「いやいやいや、こんなに短い髪ですから自然乾燥でいいですよ」
「風邪ひいたらどうするんだ。乾かすから座れ」
「……」
「約束を忘れたのか?」
約束というのは『2人の時は素で居て欲しい』というもののことだろうか。
確かに約束はしたが髪の毛乾かしてもらうのは違うでしょ。
「バレッサ、おいで」
「……分かりました」
しかし今日1日トラブルを起こしまくったことを考えればここで抵抗するのも何か違う気がする。
しばらく葛藤したが、大人しくダレス様の隣に座ると彼は嬉しそうに笑った。
大体は昼から夕方にかけて迎えを呼んでいたらしく徐々に人数が減ってはいくものの、興奮冷めやらない様子で賞賛されたり質問されたりともみくちゃにされていた。
手合わせの様子を見に来ていた兵士からの質問に答えたりもしていたが、日が暮れてきたこともあって宿舎に帰した。
「そろそろ僕も帰ろう…」
例の護衛に関してはカリン先生に手当てしてもらおうよう頼んでおいたため、すでに医務室で治療を受けているだろう。
本当は僕の治療を受けたいが、あれだけ傷だらけの彼の治療に手を焼いているに違いない。
「仕方ない。僕は自分で手当てしちゃおう」
重い体を引きずりながら自室に向かうと、何故か僕の部屋の前にダレス様が立っていた。
「ダレス様?」
「サイラス、今戻って来たのか」
僕の顔を見るなり安堵したように大きな息を吐かれていた。
何かあったのだろうか。
「あの…?」
「色々話したいことがあるのだが、今からだと厳しいか?」
正直厳しいが、僕としても色々聞きたいことがある。
それにどうせ一緒に寝るんだからいいか、とどこか楽観的に考えている自分もいた。
「大丈夫です…と言いたいところですがシャワーだけ浴びさせてもらってもいいですか?汗臭いですし土埃被ってますし」
「分かった」
「…僕の部屋で良ければ入られますか?」
「いいのか!?」
「特に何もありませんがそれでもよろしければどうぞ」
「何もなくて構わない!お邪魔する!!」
若干こちらが引いてしまうほど嬉しそうな顔でダレス様は僕の部屋に入られた。
ダレス様を部屋に招くと彼は興味津々に僕の部屋を見ていた。
「これがサイラスの部屋か。本当に物が少ないな」
「必要最低限の物しかないので散らかりようがないんです」
書物や書類は部屋の端に置いてあり、部屋の造りは至ってシンプルだ。
一刻も早くシャワーを浴びたいためテキパキと紅茶を淹れてダレス様に出してから、クローゼットを開けて寝る時に着ている服を適当に取り出す。
「ではシャワーだけ浴びさせてもらいます」
「慌てなくていいからな」
「お暇でしたら本棚にある本でも読んでくださっても構いませんので」
「分かった」
ダレス様に断りを入れて僕はシャワー室に入った。
汗でべっとりと張り付いている服を脱いでサラシを取っていく。
サラシに血が滲んでいるためどこかから出血しているらしいが傷口が見つからない。
気にしても仕方ないため、とりあえず頭から熱いお湯を浴びるとやっと生きた心地がした。
髪の毛や体を綺麗に洗い、手早くタオルで拭くもやはりタオルに血が付いた。
「えぇ…どこ怪我してるんだろう」
目で見ても分からないため鏡で背中を見てみると背中の一部に擦り傷ができていた。
結構抉ったようでそこそこ血が滲んでいる。
「サラシつければいいか。そのうち治るでしょ」
一応ガーゼを挟んでからサラシを巻いていく。
乾ききっていない髪の毛をタオルで包み込みながら浴室から出ると、ダレス様はソファに腰掛けて本を読んでいた。
「おかえり」
「ただ今戻りました。そのまま本を読んでくださっても構いませんよ」
「いや大丈夫だ。それよりも髪を乾かしてあげよう」
ダレス様はすぐに本を閉じると嬉しそうに自分が座っているソファーの隣を叩いてくる。
「いやいやいや、こんなに短い髪ですから自然乾燥でいいですよ」
「風邪ひいたらどうするんだ。乾かすから座れ」
「……」
「約束を忘れたのか?」
約束というのは『2人の時は素で居て欲しい』というもののことだろうか。
確かに約束はしたが髪の毛乾かしてもらうのは違うでしょ。
「バレッサ、おいで」
「……分かりました」
しかし今日1日トラブルを起こしまくったことを考えればここで抵抗するのも何か違う気がする。
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