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5.王権政争救出編

12.満面の笑みの押しかけ彼女へ引きつった笑みを浮かべることのススメ

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 結局、第一王子は俺の土産が気に入ったようで、アリア一派から一切の手を引くことに了承した。

 『主殿の一言はなかなか恰好よかったのう』

 エクスに褒められて、俺は頬が緩む。

 俺は第一王子にこう説いた。

 「殿下よ。これはシスプチン王国の特殊工作部隊 通称「死神」と呼ばれる5人衆のうちの一人の全身鎧。アリア殿が襲われているのをみて、我が葬った。この全身鎧を利として進呈しよう」

 「それが我にどんな利になる」

 第一王子は俺を睨みながら問うてくる。

 「死神部隊は、シスプチンの国王の虎の子の部隊。そのうち1体の全身鎧の使い方はいろいろ浮かぶのう。国民の嫌悪の象徴の敵国の虎の子の部隊を殿下の配下が、妹御と救うために命を懸けて倒したと喧伝すれば、この王権争いへの影響はどうなるかのう?はたまた、シスプチン王国との将来の交渉の際、あちらの国王は、自分の権威を守るため、この部隊の全身鎧を取り返すために、どの程度の譲歩をしてくれるか、想像するだけでワクワクするぞ。どんな機に、どれほどの利にするかは、殿下自身の覚悟次第かと思うがのう」

 第一王子は俺の言葉を嚙みしめながら、しばらく考え込む。

 その後、ボソッと「なるほど」と一言言葉を発した。

 「ゲファルナ卿。貴殿からの土産をもらい受けよう。ただし、我が約定するのは、アリア一派から手を引くことだけだ。キャリソンにまで情けをかければ足元を掬われる」

 「それで結構。我はアリア殿とシルフェ殿との友誼ために骨を折ったにすぎぬ」

 「こちらもそれを聞けて大いに結構。できれば、今後も貴殿のような化け物の相手は御免こうむりたい。要らぬお節介をしてくれるなよ」

 第一王子が第二王女救出に手を貸すなと念押ししてくる。

 「成り行き次第じゃが、我も極力避けるよう努めましょうぞ」





 魔界の有触手植物「シュクカズラ」の召喚を解除した後、オーファが、第一王子の3名護衛騎士を起こす。意識が戻った3名がオーファと俺に敵意を向けてくるが、第一王子が「やめよ!」と一喝する。

 その後、3名のうち、一番若い騎士に第一王子が至急案件ということで、法務大臣を呼び出すように指示を出し、10分ほどして、第一王子の談話室へ法務大臣がやってきた。

 俺は、法務大臣にウルフォン公爵の進言状を渡した。その際、第一王子が法務大臣に経緯を説明し、アリアさんとシルフェさんを無罪放免するよう指示を出し、法務大臣が急ぎ、身柄解放の命令書を発行した。

 俺は、より危険なシルフェさんの身柄を地下牢獄へ引き取りに行き、その足で、第三王女の監禁部屋より、アリア王女の身柄を無事引き取った。

 今回の件で、わかったことがある。

 第一王子は、要求は厳しいが、決断も早く、思考の幅も奥深く、なにより視野が広い。意外によい国家元首になるのではないか、という感想を持ったが、アリアさんやシルフェさんには言い出せなかった。

 何はともあれ、当初の目標であった、第三王女とシルフェさんの身柄を無事解放させることに成功した。

 『主殿は、「魔獣狩り」で、はじめての接吻も済ませたから、これで少しは大人に近づけたのう。魔女っ娘との子作りもあと数年すれば、できるようになるじゃろうな』

 とエクスは余計なことを言ってくる。





 第二王女&第三王女派閥が、今回の「魔獣狩り」でうけた損害は計り知れない。

 結局、御旗の第二王女は、命こそ首の皮一枚で繋がったが、今回の魔獣狩りの大損害の責任を一身に負わされ、王都から追放処分となった。

 財務閥、法務閥、国家治安閥、外務閥、門閥派や原理主義派などの第一王子派の攻勢に、国王陛下、それから、魔法技術閥、運輸流通閥などの第二王女派が屈したようなものだ。第二王女は、王都から遠く離れた皇領の南西部の都市ベルパスタに無期限謹慎となった。

 後年、魔獣狩りから第二王女失脚までの出来事を「ベルパスタ追放事変」と呼ばれることとなる。

 また、命の危険に幾度となくさらされた第三王女は、護衛騎士と専属魔法師の側近2名を失い、さらに、第二王女の後ろ盾は完全に消滅した。

 辛うじて旧第二王女の派閥の「残骸」を引き継いだが、元々第二王女の与力だった第三王女に統率力やカリスマ性は期待されていない。結果、求心力を失い、もはや派閥とは呼べない代物となっている。

 そして、その規模も魔獣狩りの前とは比べるまでもなく、実質、第一王子の対抗馬としては、壊滅状態といってもよい状況となった。





 「殿下。私は殿下の専属魔法師の資格はありません。殿下をお守りするどころかお荷物になってしまっている自分が許せません。どうか、お暇を頂戴しとうございます」

 シルフェさんは、身柄を解放されてすぐ、自分の弱さと能力不足を痛感し、第三王女専属魔法師の職を辞した。

 アリアさんは、必死にシルフェさんを止めたそうだが、シルフェさんは頑なで、ついにはアリアさんも折れた。公爵や門閥派からにらまれているシルフェさんがそのままアリアさんの専属魔法師にとどまっていると、第二王女の後ろ盾もなくなった今、政敵につけ入る隙を与え、第三王女の身に再び危険が迫るとも限らないことを危惧してのことだと、アリアさんにもわかっているから、それ以上無理にも止められなかったそうだ。

 専属魔法師の職位を返上して、すっきりした顔のシルフェさんが、いきなり大きな荷物を抱えて、俺の寮の部屋に押しかけてきた。

 「アルフ君。私、失業しちゃいました。実家も下級官吏の家だから、今回の政争の件で巻き込まれないようにと、勘当されてしまって、行くところがなくなっちゃいました。だからという訳ではないけど、身も心もアルフ君に捧げた身だから、どうか今日からお傍においてください。末永くよろしくお願いします」
 
 と深く頭を下げてくる。
 こ、これは?逆プロポーズというやつか?
 いきなりな展開に俺は焦る。

 『早くも嫁取りか。主殿よ。我もこの魔女っ娘の性根を気に言っておるで異論はないぞ。せいぜい可愛がってやるがよいぞ』

 お、おい。エクスよ。無責任なことを言うな。俺はまだ学生だぞ。それにまだ職もないから稼ぎもない。

 いや。実は稼ぎはある。

 俺は、「赤獅子会」というパルスキーの魔獣対策組織と「ノーフェース」という王都の地下組織の2組織のオーナーだから、実は、実家からの仕送りとは別に、それなりの収入を得ることができる。だから、シルフェさん一人、養えないこともないか、と考えを改める。

 「行くところもないので、今日からアルフ君、いえ、旦那様のお世話をさせていただきますね」

 と満面の笑みで、俺に宣言してきたシルファさんを、俺はただただひきつった笑いを浮かべるしかできなかった。
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