71 / 99
5.王権政争救出編
閑話 第一王子とウルフォン公爵との密談 その1
しおりを挟む
第一王子シーザー・フランドは、将来の義理の父となるウルファン公爵と謀り、王権争いの最大のライバルであった腹違いの妹 第二王女のキャリソン・フランドを王都より遠く離れた南西部の都市ベルパスタへ押し込めることに成功した。
だが、まだ油断はできない。
当初の計画では、同じく腹違いの妹であるアリア・フランドが精神を病み衰弱死する。そのきっかけとなった「魔獣狩り」で、キャリソンの指揮の失態がアリアの死を引き起こしたものとして、強引にでもキャリソンの賜死まで追い込む予定であった。
計画は些少の手抜かりもなく進んでいた。
ウルファン公爵が仕入れてきた隣国シスプチン王国の国家イベントの妨害工作をうまく利用し、万が一計画が失敗しても、すべて外国勢力の仕出かしたことであるという逃げ道すら用意していたほど数多くのシミュレーションがされていた。
最大の誤算は、魔法しか取り柄のない、とるに足りないと思っていたアリアが情勢を一変させるほどの強力なカード「ジョーカー」を連れてきたことだった。得体のしれない小柄な外国貴族。不気味なマスクに黒のローブを羽織り、いかにも魔法師という姿をしていた。
ゲファルナ卿と名乗っていたが、いったい何者なのか?
化け物級の高位魔法師であり、交渉術も卓越していた。
そのジョーカー、ゲファルナ卿の介入により、計画の最終段階で、大きな軌道修正を余儀なくされた。結果、キャリソンとアリアの姉妹の政治力は奪えたが、ともに息の根までは止められず、禍根を残したままになってしまった。
キャリソンの失脚とともに、後援していた組織も壊滅させることができた。主力組織の一つ、運輸流通閥は、おそらく、自然と分裂し、時を経ずに尻尾を振ってくるであろう。そして、残るは魔技閥の中枢のみ。少し時間をかけて魔技省の人事の総入れ替えをしてやろう。
本日のウルファン公爵との密談の内容は、ジョーカーであるゲファルナ卿についてだ。
シーザーと公爵は向かい合ってソファーに座っている。
公爵が口を開く。
「計画の変更もありましたが、最大の障害であった人物を封じることができましたな。殿下」
「ああ。だが、予想外の化け物を呼び込んでしまった」
「あの異邦人ですな」
二人とも魔法師ではないから詳細まではわからないが、見たことも聞いたこともない魔法を行使し、まるで底が見えなかった。そして、第一王子、ウルファン公爵ともに譲歩させられたその政治交渉力は侮れない。
「殿下。アリア殿下と忌々しいシルフェ・アンダーソンのここ1年の怪しい動きを手の者に調べさせました」
公爵家は、参謀であり知恵袋だった熟練魔法師を2名失った。
彼らの魔法師としての実力は宮廷魔法師と比べても遜色なく、参謀としても一流であったはずだが、ジョーカーに完全に心を折られてしまったとのことだ。そのこともあり、公爵は、アリアと側近のアンダーソンの動きから、ジョーカーに繋がりそうな、ありとあらゆる情報をかき集めていた。
公爵が調べた、アリアたちの動きは奇怪という他なかった。
まず、アリアが専属魔法師のアンダーソンを行政大学校へ講師として潜入させていた。これが約10か月前のことだ。その後、魔技閥の学生組織へ一人の生徒をアリアが直々に推薦していた。そして、その一学生とわざわざ王宮で謁見していたことも判明した。魔法の才もない、たかが内官の養成学校の一学生のためにだ。
さらに、定期的にアンダーソンにその学生の様子を見に行かせ、なにかにつけて、アンダーソンが姉のように世話をしていたことまでわかった。
「公爵。その学生の名はなんという?」
「アルフレッド・プライセンです。プライセン子爵家の三男ということです」
「なに!プライセン子爵家だと!あの飛竜騎士とオークを追い返したプライセンか?」
正直驚いた。2年ほど前に、シスプチン王国がいよいよ本格的に我が国へ侵攻してくる。その先兵として精鋭部隊を送り出してきた、と軍官たちが大わらわになったことがあった。
王宮内でも、国中から急ぎ兵のかき集め、強固な防衛線を張り、国外へ押し返さないと国家存亡の危機になる、と言われたほどの出来事だった。
しかしふたを開ければ、その精鋭部隊を一子爵家が少数の兵をもって見事追い払った。王宮では、結果から見て、シスプチン王国は本気で侵攻の意図はなかった、今回も単なる威力偵察にすぎなかったと結論づけられていた。
当時、国王陛下も懸念から解放され、大変ご満悦で、大いに眉を開いたものだ。
「殿下。あのプライセン子爵家です。しかも軍監の報告書によると、シスプチン王国の精鋭部隊の撃退の指揮をしたのは、その学生、アルフレッド・プライセンということになっていました。単なる名前だけの神輿と見られてはいましたが,,,,,,,,。記録では当時12歳です」
アリアは、敵の侵攻は本気であったと読み、その早熟の天才が撃退したと判断して、密かに自分の陣営に勧誘していたということか。
「面白い。公爵。そのパン無駄が指揮をした部隊の数は?それとシスプチン王国軍の戦力比はどうだったのだ?」
「記録では、子爵家が250。敵国が1500ほどだったとか」
「間違いない。決まりだな」
怪訝さが確信に変わった。威力偵察などではない。隣国は本気だった。6倍の兵力差があり、しかも戦略兵器である、飛竜に使役魔獣が数百も繰り出して威力偵察などありえない。そしてその状況を覆せるのは、味方が敵の数倍の兵力である場合か、味方側に戦略級の魔法師が複数いる場合しかない。
「殿下。報告書を読んでも信じられませんでしたが、やはりジョーカーはアルフレッド・プライセンである可能性が非常に高いですな」
「それから」、と公爵はさらに続ける。
ジョーカーは、貴族家に生まれながら、行政大学校に進学するにあたり、財務閥の内官家に師事していた。行政大学校に入学した際、一度、財務閥の下部組織に入会したいと挨拶に来ていた。しかし、財務次官インフォ家の後継が派閥入りを断っており、これ幸いとばかりにアンダーソンが魔技閥とジョーカーを結び付けたという。
「インフォ家の倅は大馬鹿か!」
シーザー・ブランドは思わず財務閥インフォ家の軽率な対応に激昂する。
(その2へ続く)
だが、まだ油断はできない。
当初の計画では、同じく腹違いの妹であるアリア・フランドが精神を病み衰弱死する。そのきっかけとなった「魔獣狩り」で、キャリソンの指揮の失態がアリアの死を引き起こしたものとして、強引にでもキャリソンの賜死まで追い込む予定であった。
計画は些少の手抜かりもなく進んでいた。
ウルファン公爵が仕入れてきた隣国シスプチン王国の国家イベントの妨害工作をうまく利用し、万が一計画が失敗しても、すべて外国勢力の仕出かしたことであるという逃げ道すら用意していたほど数多くのシミュレーションがされていた。
最大の誤算は、魔法しか取り柄のない、とるに足りないと思っていたアリアが情勢を一変させるほどの強力なカード「ジョーカー」を連れてきたことだった。得体のしれない小柄な外国貴族。不気味なマスクに黒のローブを羽織り、いかにも魔法師という姿をしていた。
ゲファルナ卿と名乗っていたが、いったい何者なのか?
化け物級の高位魔法師であり、交渉術も卓越していた。
そのジョーカー、ゲファルナ卿の介入により、計画の最終段階で、大きな軌道修正を余儀なくされた。結果、キャリソンとアリアの姉妹の政治力は奪えたが、ともに息の根までは止められず、禍根を残したままになってしまった。
キャリソンの失脚とともに、後援していた組織も壊滅させることができた。主力組織の一つ、運輸流通閥は、おそらく、自然と分裂し、時を経ずに尻尾を振ってくるであろう。そして、残るは魔技閥の中枢のみ。少し時間をかけて魔技省の人事の総入れ替えをしてやろう。
本日のウルファン公爵との密談の内容は、ジョーカーであるゲファルナ卿についてだ。
シーザーと公爵は向かい合ってソファーに座っている。
公爵が口を開く。
「計画の変更もありましたが、最大の障害であった人物を封じることができましたな。殿下」
「ああ。だが、予想外の化け物を呼び込んでしまった」
「あの異邦人ですな」
二人とも魔法師ではないから詳細まではわからないが、見たことも聞いたこともない魔法を行使し、まるで底が見えなかった。そして、第一王子、ウルファン公爵ともに譲歩させられたその政治交渉力は侮れない。
「殿下。アリア殿下と忌々しいシルフェ・アンダーソンのここ1年の怪しい動きを手の者に調べさせました」
公爵家は、参謀であり知恵袋だった熟練魔法師を2名失った。
彼らの魔法師としての実力は宮廷魔法師と比べても遜色なく、参謀としても一流であったはずだが、ジョーカーに完全に心を折られてしまったとのことだ。そのこともあり、公爵は、アリアと側近のアンダーソンの動きから、ジョーカーに繋がりそうな、ありとあらゆる情報をかき集めていた。
公爵が調べた、アリアたちの動きは奇怪という他なかった。
まず、アリアが専属魔法師のアンダーソンを行政大学校へ講師として潜入させていた。これが約10か月前のことだ。その後、魔技閥の学生組織へ一人の生徒をアリアが直々に推薦していた。そして、その一学生とわざわざ王宮で謁見していたことも判明した。魔法の才もない、たかが内官の養成学校の一学生のためにだ。
さらに、定期的にアンダーソンにその学生の様子を見に行かせ、なにかにつけて、アンダーソンが姉のように世話をしていたことまでわかった。
「公爵。その学生の名はなんという?」
「アルフレッド・プライセンです。プライセン子爵家の三男ということです」
「なに!プライセン子爵家だと!あの飛竜騎士とオークを追い返したプライセンか?」
正直驚いた。2年ほど前に、シスプチン王国がいよいよ本格的に我が国へ侵攻してくる。その先兵として精鋭部隊を送り出してきた、と軍官たちが大わらわになったことがあった。
王宮内でも、国中から急ぎ兵のかき集め、強固な防衛線を張り、国外へ押し返さないと国家存亡の危機になる、と言われたほどの出来事だった。
しかしふたを開ければ、その精鋭部隊を一子爵家が少数の兵をもって見事追い払った。王宮では、結果から見て、シスプチン王国は本気で侵攻の意図はなかった、今回も単なる威力偵察にすぎなかったと結論づけられていた。
当時、国王陛下も懸念から解放され、大変ご満悦で、大いに眉を開いたものだ。
「殿下。あのプライセン子爵家です。しかも軍監の報告書によると、シスプチン王国の精鋭部隊の撃退の指揮をしたのは、その学生、アルフレッド・プライセンということになっていました。単なる名前だけの神輿と見られてはいましたが,,,,,,,,。記録では当時12歳です」
アリアは、敵の侵攻は本気であったと読み、その早熟の天才が撃退したと判断して、密かに自分の陣営に勧誘していたということか。
「面白い。公爵。そのパン無駄が指揮をした部隊の数は?それとシスプチン王国軍の戦力比はどうだったのだ?」
「記録では、子爵家が250。敵国が1500ほどだったとか」
「間違いない。決まりだな」
怪訝さが確信に変わった。威力偵察などではない。隣国は本気だった。6倍の兵力差があり、しかも戦略兵器である、飛竜に使役魔獣が数百も繰り出して威力偵察などありえない。そしてその状況を覆せるのは、味方が敵の数倍の兵力である場合か、味方側に戦略級の魔法師が複数いる場合しかない。
「殿下。報告書を読んでも信じられませんでしたが、やはりジョーカーはアルフレッド・プライセンである可能性が非常に高いですな」
「それから」、と公爵はさらに続ける。
ジョーカーは、貴族家に生まれながら、行政大学校に進学するにあたり、財務閥の内官家に師事していた。行政大学校に入学した際、一度、財務閥の下部組織に入会したいと挨拶に来ていた。しかし、財務次官インフォ家の後継が派閥入りを断っており、これ幸いとばかりにアンダーソンが魔技閥とジョーカーを結び付けたという。
「インフォ家の倅は大馬鹿か!」
シーザー・ブランドは思わず財務閥インフォ家の軽率な対応に激昂する。
(その2へ続く)
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
29
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる