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5.王権政争救出編

11.交渉は、熱しやすいけど機をみるに敏いことを見抜くことのススメ

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 「バカな。アリアを見逃せだと。公爵は何を考えているのだ!」

 第一王子は、怒鳴り声を上げた。

 「殿下。それは、ベルグ・ウルフォン公爵殿の直筆だとお分かりのはず」

 俺の声を聞き、冷静さを取り戻した第一王子は、今後は俺の値踏みするように視線を向けてきた。

 「貴様、何者だ!」

 だから、最初に名乗っているじゃないか、と思うが致し方ない。
 また名乗るか。

 「第一王子殿下よ。我は、ゲファルナと申す者。フランド王国から見ると遠国にある皇族の血筋につながるもの。この国の作法に則り、「ゲファルナ卿」とでもお呼びくだされ」

 「ゲファルナ卿というか。貴殿、どうやってウルフォン公爵と交渉したのだ?」

 俺が遠国の皇族の血筋といったら、貴「様」から貴「殿」に表現が変わった。熱しやすいけど、機をみるに敏いとは。さすが王位継承権暫定1位だな、とここでも感心した。

 「殿下よ。我の手の内を見せるとお思いか?まぁ、見せても構わんが、そちらも手の内を明かせていただけぬものかのう」

 俺はマスクの奥から、第一王子へ少し強めの殺意を送り挑発してみる。こういう時にどういう反応を本人と部下が見せるのか?事前に確認しておきたいと興味を持ったからだ。

 「殿下の御前で、この不敬者が!」

 と3名の護衛騎士が同時に俺に剣を抜いて突き立てようとするが、俺の背後に控えるオーファが得意のナイフを騎士の小手の間の素手部分を狙って投擲する。

 3名の騎士の小手の隙間の素手部分にオーファの投げたナイフが見事刺さり、3名とも「グッ!」といううなり声をあげ動きを止める。3人騎士の手から床に血が滴る。

 俺の殺意に咄嗟に反応するとは、護衛の騎士たちの練度はやっぱり高いと俺は高い評価をした。それと第一王子本人は、表情一つ変えていない。胆力がすごいのか、油断できない。

 「第一王子殿下。荒くれ物の部下をお持ちとは大変ですのう。話が終わるまでしばらく拘束させててもうおうかのう」

 俺はそういって、左目からエクスの禍々しい魔素を放出し、その魔素を材料に、触手をもつ「シュクカズラ」という魔界の植物を召喚した。召喚植物を使役し、呪詛を纏った触手で、騎士3名の身体ごと挟み拘束し、そのままそれぞれ別の方向の壁に激突させる。
「ドゴッ」と壁に金属鎧がめりこみ激しい音を発した。

 『あー!我が先日教えた、魔界の有触手植物「シュクカズラ」をいとも簡単に召喚しおって。なんかムカつくぞ。主殿よ。もっと苦労するとよいのじゃ』

 エクスが子供のように叫んでいるが、ここでは無視する。

 3名の騎士は、全身鎧に身を包んでいるといっても、壁に激突した衝撃で全員意識を失ったようだ。

 「これで邪魔者はいなくなったのう。本題にはいりましょうかな。殿下よ」

 俺もマスクの下の視線を第一王子の顔に向けた。

 「魔法師か。それも化け物並だな。それで我の手の内を明かせとはどういう意味だ?何を知りたい?」

 「潔いことは美徳じゃ。殿下よ。話が早くて助かるのう。それでは、伺おうか。第二王女殿下をどうされるおつもりか?」

 こういうハッキリした物言いの人物には、俺も直球で聞くことにした。

 「知れた事よ。貴殿が我の立場ならば、最大の政敵であるキャリソンを生かしておくのか?」

 第二王女の名前は、キャリソン・フランドということを思い出した。

 「否。速やかに処断するであろう。それは理解するぞ。じゃが、アリア殿まで処断するのは少し心配性にすぎませんかのう?」

 「アリアはキャリソンを処断するための贄だ。アリアの死なくしてキャリソンを追い詰めることはできん」

 ストレートな物言いで言ってくる。これは俺への揺さぶりのために狙っていってきているのか?それとも素なのか?なんとも判断しにくい。

 「じゃが、殿下の後ろ盾のウルフォン公爵がアリア殿から手を引くと言っておる。殿下は、支持母体のウルフォン公爵と門閥派、原理主義の官吏達と反目するつもりですかな?」

 俺の方も揺さぶりをかけてみるか?と挑発してみる。

 「今度は貴殿が手の内を明かす番だ。どうやって公爵を説得した?」

 第一王子は切り返してきた。やっぱり頭が切れるな。

 「弱みを握り、少しだけ脅しをかけたが、それ以上に、今回、我に譲れば利があることを説いたまで」

 「ほう。なれば、我が今回譲ればどんな利がある?」

 この王子は凄腕のネゴシエーターだと正直感嘆した。
 一見、熱しやすいように見せて、ものすごく冷静に利害を計算する。

 「今回、アリア殿、その部下の魔法師殿含め、アリア殿主従から一切の手を引いた場合、これを殿下に進呈しましょうぞ」

 俺はそう言い、シスプチン王国の工作員の全身鎧の一つを亞空間から取り出す。

 「なっ!貴殿はいったい何者だ!」

 と、なにもない空中から、俺が全身鎧を取り出すのをみて、第一王子は絶句して驚いていた。
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