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自由編

クロノの女たち

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 翌日、店のフロアには、すっかり舎弟の雰囲気を出すロックと、娼婦たちが居る。今からこいつらに挨拶をして仲良くなるとしよう。


「おはよう、諸君。今この場に居る女の子は、この店で優秀な成績を収め、寝室を私室として無償で提供されている正社員……そういう認識で間違いないか?」

「えぇ、そうよ。そしてこのわたくし、マリー・ゴールドこそが花形というわけ。あなたのお話も、わたくしが代表として答えて差し上げますわ」

「よく分かった……おめでとう。君たちは選ばれた! 選ばれし負け犬だ」

『挨拶の定義を見直そうか』


 俺が口を開くまでは、これから何をするのかと気だるそうな感じだったのに、今ではすっかり話を聞く気になっている。眉間にシワが寄っているのが、その証拠だ。


「な、何ですって!? わたくしたちは、数十人と居る希望者の中から選ばれたのよ! 負け犬なものですかっ」

「数十人? 少ない少ない。おまけに、底辺同士の頂上決戦ときたもんだ。笑っちゃうね」

「くだらない。時間の無駄ですわ。さぁ、皆さん帰りましょう」

「どこに帰るんだ? この店の一室が、お前らの家だろう? 仮初の家に帰りたいなら止めないが……」

「と、扉が……開かない……っ!?」


 シャドーデーモンをステンバイ。中から鍵をかけさせてもらった。話は最後まで聞くもんだぜ。


「おやおや、俺の話をそんなに聞きたいとは。お前らの中に、『自分はこんなところに居るべき人間じゃない』……そう思ったことが、一瞬でもあるやつは、手を上げろ」


 場が静まり返る。うつむいたところで、くすんだ床があるだけだぜ。


「お前ら本当に見込みがないな。とくにマリー。お前にはがっかりだ。威勢のいいことを言っておきながら、いざ答えにくい質問をされたらだんまりだ。ロックの目など気にするな。俺と話をしようじゃないか」

「……あるわ。あるわよ! そう思わない日は一瞬だってないわ!」

「素直でよろしい。他の子たちもそうだろう。この場ではっきりと言っておく。お前たちは、この場が相応しい人間だ!」

「ちょ、アニキ! 火に油を注いでどうするんですかい!?」


 飛びかかろうとする娼婦たちを、ロックが食い止めている。舎弟として合格だな。


「お前らは、自分の力を発揮できていない。だからここに居るんじゃないか。もし抜け出したいなら、俺の話を最後まで聞くことだな。それとも、こんなクソみたいな環境に耐えられて、怒りのひとつも我慢できんのか?」


 嬢たちの動きが止まった。胸をなでおろすロックを見た感じ、いつの時代も強いのは群れた女だよな。俺も後ずさりしそうになったよ。


「お前たちは娼婦だ。金を貰って会ったばかりの男と一夜をともにする。好きでそうなったわけじゃない。落ちこぼれてここに来た。ロックに拾って貰った。それは分かる。不思議なのは、いつまでここに居るつもりなんだ?」


 誰も何も答えない。答えにくい質問をしている自覚はある。返事があればそれを拾うが、なければ次の質問を投げかければいいだけのこと。


「這い上がりたくないか? それとも、もう諦めちまったか?」

「わ、わたくしは……夢を諦めてなどいません。今は上手くいってないだけよ……」


 普通なら負け惜しみと取れる発言は、俺が求めていた返答である。


「その通りだ! では、なぜ、君たちは負け犬なのか? それは、勝ち方を知らないからだ! 俺が教えてやる! 性技ってやつの奥深さをな」

「……偉そうに。勘違い男のお説教はうんざりですわ」

「百聞は一見にしかず。実演して見せよう。もちろん無料だぞ。感謝しろ」

「そんなことを言って、わたくしたちを抱きたいだけじゃなくって?」

「何を勘違いしているんだ? 今のお前らの体に興味なんざねぇよ。はいはい、入ってきて!」


 手を叩くと、3人の女の子が入ってきた。いやぁ、事前に打ち合わせしているとはいえ、ドキドキしちゃうね。


「その方々は? 随分と、若いように見えるけれど」

「紹介しよう。俺の友人……え、違う? 彼女でいい? あ、はい。俺の女たちだ!」


 何度かリテイクを貰い、紹介した3人の女。小人族のミラちゃん、ティミちゃん。そして、テレサちゃんである。


 彼女たちはいずれもズタ袋を深く被っている。くたびれた服も着せた。顔を隠して身バレ防止だ。同じ理由で、喋りもしない。テレサちゃんは【ウィスパー】を使っているから、たまに俺に耳打ちしてくるが。


「この子たちは、俺が特別に気にかけている女だ。年齢はお前らより若いかもしれないが、見た目で判断しないほうがいいぞ。なぜなら、彼女たちは……どすけべ三銃士だからだ!!」

「どすけべ三銃士ですって!? えっ、どなた……?」


 俺も知らん。適当に言ったし。それに、肩書というものは後から付いてくるものさ。


「これから俺は、この子たちとエッチなことをする。お前らは黙って見ていればいい。そして比べるがいい。自分と、この子たちのテクニックをな」


 自信満々に言ったが、実のところは先が見えない展開だ。色々と不安要素がある。だがしかし、俺の推しである彼女たちなら、きっと卒なくこなしてくれることだろう。


「そんじゃ、よろしくね」


 椅子にどっかりと腰を据えて、目を閉じる。今日は彼女たちの力を見せつける場なので、俺が何かをしては意味がない。手間取りそうなら、少しだけアドバイスをするくらい――。


 両端の彼女たちが、俺の肩に手を置く。細く小さな体をそっと寄せてくる。中央には小人族がひとり……ミラちゃんか、ティミちゃんか。背格好が似ているので、ズタ袋で顔が隠れていると判別が難しい。


「……おっ、そっちか」


 ズボンの上から、ゆっくりと手を置かれる。力強く、迷いを感じさせない手付き。これは手コキエンジェル・ティミちゃんで間違いない。


 端に居る彼女たちも、ぐっと体を押し付けてくる。服越しにも分かる、細さと柔らかさ。腰に手を回せば、きっとそれだけで楽しいだろう。実行できないのが惜しい。


 跪いたティミちゃんは、ズボンの上から息子を揉み込んでくる。一定の感覚で、親切な刺激を与えられ、息子が緊張していくのが分かる。


 俺の意識は、自然とティミちゃんに向く。それが面白くないのが、横に居る彼女たちだ。地の利は完全にティミちゃんに取られている。ドスケベマウントと言ってもいいだろう。それを覆す方法など――。


「……はうぉ!」


 ある。あったのだ。おじさんの乳首を、人差し指で軽く擦ってきた。たったそれだけのことで、情けない声が出てしまった。


 おじさんはスケベだが、ごく普通の性癖の持ち主なのである。ナイトメアにちょっと突っ込まれたが、気にしないゾ。人前で性行為をする経験はない。それがいきなり大勢の目の前でコレをするのだから、緊張しちゃっているのだ。


 恥ずかしくて耳まで赤くなりそ――。


「おうぅっ」


 赤い耳を、つぅーっと指でなぞられる。横の彼女たちは、片手で乳首をすりすりしてくれている。まだ手が空いていたのだ。うまく使ってきたじゃないか。


 俺のシャイボーイが、グングン固くなる。本来ならおまけであるはずの立ち位置の彼女たちに、乳首を擦られ、耳を触れられ、緊張は具現化した。ズボンを破らんばかりのフル勃起である。


 ナイスアシストを受けたティミちゃんは、チャックを下ろして我が息子を開放した。すぐにでも神々しい手コキ技を披露してくれる。そう思っていたのだが、思いっきり掴まれた。


 俺は酷い勘違いをしていた。俺の女たちは、互いに助け合っているのだと思っていた。実際は、逆だ。これは戦っているのだ。己が一番なのだと……おじさんの体を使って、激しい火花を散らしているのだ。


 おじさんの体、性的な意味でボコボコにされちゃう予感……。
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