55 / 73
婚約者は魔法使い
ハッピーウエディング!! 後編
しおりを挟む礼拝堂での一連の儀式が終われば、今度は場所を教会の庭に移してのガーデンパーティが待っている。
花で飾られた教会の広い庭には、たくさんのご馳走と酒やジュースが並んだテーブルが置かれており、人々は立食形式で、美味しい料理と酒を楽しんだ。
ここで出されている料理は、島のレストランのシェフ達が腕を振るってくれたものだが、中にはアニエスや母親のクラリスが焼いてきたフルーツケーキなどの焼き菓子もあった。
島に長く住む年配の島民達は、懐かしいハルモニア夫人のフルーツケーキに「ああ美味しい」「懐かしい」と舌鼓を打つ。
そしてこれからは、彼女の味を受け継いだ娘のアニエスの作る美味しいパンやお菓子を食べられるようになるのだと、間近に迫るアニエスのパン屋の開店を楽しみに思った。
使い魔猫達は甲斐甲斐しく参列者の間を回って、愛想よくお酒を注いだり料理を取り分けたりと、給仕役に務めている。その愛らしい様子は、参列者達の目を和ませた。
パーティの主役である新郎のサフィールは、今は一人、島の若者達に取り囲まれている。
彼らは皆、島一番の美人を射止めたサフィールに「うまくやりやがって」と絡みつつも、「幸せにしなかったら許さないからな!」「アニエスを泣かせたら海の藻屑にしてやる!!」などなど物騒な激励と、「幸せになれよ畜生!!」と、乱暴な祝いの言葉を贈っていた。
もう一人の主役であるアニエスは、今はお色直しで席を外している。
もっとも、お色直しといってもドレスを変えるわけではなく…。
「わあ…!! アニエス可愛い!!」
「ありがとう…!!」
ロングトレーンを外して動きやすくなったドレス。
結い上げていた髪は下ろして、ベールの代わりにピンクの薔薇と白の薔薇で編んだ花冠を付けて印象を変えたアニエスは、使い魔である黒猫のカルにエスコートされて庭に現れた。
そしてサフィールの元へたどり着く前に、若い女性達に囲まれる。
「すっごくすっごく綺麗!! 私も結婚したくなったー!!」
「もー!! こっちが泣きそうだったよー!! 感動した!!」
「本当に綺麗~。これ、王都で仕立てたの?」
「素敵よね~!! それに、サフィール恰好良すぎだし!!」
「美男美女の夫婦誕生…!! だね!!」
女性達は大興奮、であった。
にこにこと微笑んで応えるアニエスと違い、黒猫のカルはあわわわと女性達の勢いに押されている。
「ちょ、ちょっと離れて下さいにゃー。動けないですにゃー!!」
「ああっと、ごめんね猫さん」
カルの必死な様子に、女性達はにこにこと笑いながら少し離れてくれる。
カルは改めて、と。こほん、と一つ咳払いをし。
「今から、ブーケトスをしますにゃー。花嫁のブーケを手にした人は次の花嫁になれるって言い…」
「きゃー!! 欲しい!!」
「私も欲しいー!!」
「私も!!」
「私もー!!」
「にゃー!!」
再び女性達に取り囲まれ、悲鳴を上げるカルであった。
庭の中央にある、少し開かれたスペース。
そこで、後ろ向きに立つ花嫁のアニエス。
少し離れた所には、若い女性達が押し寄せていた。
「じゃあ俺が合図しますにゃー」
黒猫のカルが、手を上げる。
「アニエス様、準備はいいですにゃ?」
「はーい。任せて」
アニエスは後ろを向いたまま、大きく頷いた。
その手には、女性達が皆狙っている花嫁のブーケが。
礼拝堂の飾りと同じく、白百合をメインに白薔薇、アイビー。アクセントにピンクの小薔薇をあしらったな愛らしいブーケだ。
「では、さーん」
ごくり…と唾を飲む女性達。
「にーい」
それを微笑ましく見つめる、他の参列者達。
「いーち」
そして使い魔猫の声が、時を告げる。
「にゃーお!!」
「えいっ!!」
カルの合図に合わせ、ポーン!! と。
空に高く放られたブーケ。
それはゆっくりと、弧を描き。
「いえーい!! ゲットー!!」
「「「「「「「「えええええええええええええええええええええ!!!!」」」」」」」」
…鷹の爪に、捕らえられた。
鷹のアレックスはブーケを爪で器用に掴んだまま、ご機嫌で低空を旋回する。
「これで気になるあの娘にプロポーズ!!」
それってアリー!? と、ブーケを…ひいては次の花嫁の座を狙っていた女性達が肩を落とす中…。
「…アリなわけないだろう」
ゴイン!! と。
ブーケ泥棒の鷹に、ご主人様であるクラウドの容赦ない拳骨が振り下ろされる。
「ぐえっ!!」
拍子、ぽとり…と爪から落ちたブーケを手にとったクラウドは申し訳なく微笑んで、
「申し訳ない、お嬢さん方。うちの馬鹿鳥がご迷惑を…」
と謝罪する。
女性達は、気を悪くした風ではなくそんな主従のやり取りにくすくすと笑って、
「「「「「「「「それじゃあもう一回お願いします!! 花嫁さん!!」」」」」」」」
今日の主役である花嫁に、そうリクエストした。
二回目のブーケトス。
花嫁のブーケを手にしたのは、アニエスと島の学校で同級だった若い女性。
彼女はブーケを手に、小さくアニエスに言った。
「…実は、ずっと好きな人がいるの。勇気がなくて言えなかったけど、でも、このブーケがあれば、今なら、言える気がするわ!」と。
そしてその場で、同じく同級だった漁師の若者に告白し…。
「おっ、俺も好きだったんだ!!」
「!!」
たくさんの人々の喝采の中、新たな恋人同士が誕生した。
喜びと笑顔の溢れる結婚式だった。
王都でお世話になった、パン屋の主人夫妻もアニエスの晴れ姿を心から喜んで、祝福してくれた。
夫人は、「クレス島は良い所ね!」と。「自然も、ここに暮らす人々も素敵だわ!」と言ってくれた。主人も、うんうんと頷きながら、「幸せになれよ」と言ってくれた。
アニエスにとって、もう一人の父であり母である人達からの祝福に、また涙腺が潤む。
家族も、友人達も。
島の人も、そして見知らぬ観光客の人々も、皆、アニエスとサフィールを祝福してくれた。
なんて…。なんて、幸せなんだろう…!!
この日のことを、きっと、一生忘れない…!!
アニエスは蒼い空の下、白い花々に溢れる庭で…。
傍らに立つサフィールに、そう囁く。
サフィールも、微笑み、頷いて…。
「俺も、忘れない」
花嫁の頬に、キスをした。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
457
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる