なぜ世界最大の航空機製造・ボーイングが経営危機に?安全性より利益優先の代償

 このように、ボーイング社の経営を誤った方向に導いた経営者たちが、多額の退職金を得て、一方現場の労働者が軽んじられていることが、労働者の怒りを買い、今回のストライキを長引かせる原因ともなっている。

 ボーイング社は、8月8日付でケリー・オルトバーグ氏を新しい社長兼CEOに任命した。オルトバーグ氏は、有力な航空企業であるロックウェル・コリンズ社でCEOを務めた経験があり、航空宇宙産業協会(AIA)の元理事長でもある。

 オルトバーグCEOは、四半期赤字9140億円を計上し、労組がストを継続する苦しい経営環境の中、経営再建に向けて「根本的な企業文化の変革」を表明している。一方で、ボーイング社は、全世界の従業員の約10%に当たる1万7000人を削減すると発表し、また、財務強化のため約150億ドル(約2兆2842億円)を調達する計画を示している。

 今後、ボーイング社の経営危機が、さらに長期化する場合には、連邦破産法第11条(チャプター11)の適用も視野に入ってくる。チャプター11は、日本でいうところの破産(会社清算)のイメージとは異なり、CEOら経営陣はそのまま残り、債権者らステークホルダーと共に、連邦管財人の管理の下で会社再建を行う、民事再生法に近い制度。事実、過去に、デルタ航空、アメリカン航空など多くの大企業がチャプター11を使い、見事に甦っている。

 しかしながら、ボーイング社には伝統的に、政府の介入を極端に嫌う性向があり、コロナ禍の2020年に連邦政府から補助金提示を受けながら、政府の経営干渉を避けるために、あえて断り地力での財源確保を行った経緯もあるため、ぎりぎりになるまで、チャプター11の適用を見送る公算が大きい。

 世界の民間航空を維持、発展させるためには、エアバス社に並んで、ボーイング社が健全な形で存続し、旅客機を生産し航空会社に供給することが不可欠。企業文化の改革も含めて、オルトバーグCEOの手腕に期待をするしかない。

(文=橋本安男/航空経営研究所主席研究員、元桜美林大学教授)