なぜ世界最大の航空機製造・ボーイングが経営危機に?安全性より利益優先の代償

政府を欺いた罪を認め、司法省と司法取引に合意

 B737MAX墜落事故後、2021年にボーイング社は、航空機開発と製造で改善と対策を講じることを条件に、政府/FAAを欺いた罪での刑事訴追を免れることで司法省と合意した。ところが、今年1月にアラスカ航空のB737MAX9型機の飛行中にプラグ・ドアが吹き飛び、穴が開き、人命が失われる寸前の事故に陥った。原因は、製造時にプラグ・ドアを留めるボルトを付け忘れるという品質管理上の問題だった。事ここに至って司法省は、改善と対策を講じる約束を反故にしたという理由で、一旦留保した刑事訴追を復活させた。

 裁判の被告となったボーイング社は7月、再発防止策を履行しなかった「詐欺罪」を認め、司法省と司法取引に合意し、2億4360万ドル(約390億円)を支払うことで裁判を回避。米国の大企業が有罪を認めるのは極めて異例だ。ただでさえ悪化している経営の中で、罪を認めてでも長期の裁判を避けたものと考えられる。B737MAX墜落事故の遺族たちは、この司法取引を認めた政府に強い抗議を行っている。

企業文化/企業風土の改悪がボーイング社危機の根源

 もともとボーイング社は、家族主義的な気風に富んだ技術者集団であり、米国を代表するエンジニアリング企業と呼ばれていた。ところが、1990年代前半から、その性格を変え始め、技術よりも利益と株価に優先度が傾斜。その傾向を決定的にしたのが1997年、経営不振になっていたマクドネル・ダグラス社との合併だ。

 マクドネル・ダグラス社のCEOだったハリー・ストーンサイファー氏は、合併後のボーイング社の社長に就任し、企業風土を利益至上主義に転じる構造改革でらつ腕を発揮。実は、ストーンサイファー氏は、「経営の神様」として一時期あがめられたジェネラル・エレクトリックCEOであったジャック・ウェルチ氏の下で薫陶を受けた愛弟子。ウェルチ氏の基本的な経営手法は「リストラ」「ダウンサイジング」「アウトソーシング」という大規模な整理解雇による資本力の建て直しと、企業の合併・買収(M&A)だった。

 ストーンサイファー社長の経営によって、技術者集団による家族的風土は破壊され、技術者も単なる一労働者として見なされ軽んじられるようになる。このため2000年2月には、1万7000人の技術者がストライキに訴えた。現場労働者ではないホワイトカラーによるストライキは、米国でも非常にまれなことだった。

 ストーンサイファー氏の退任以降もボーイング社は、利益・株価至上主義の経営に邁進。経営陣は現場の技術者や労働者のことより、政府へのロビー活動や民主・共和両党への政治献金を優先し、政府の規制当局FAAをも支配。FAAの審査官が、設計や製造上の問題を指摘しようものなら、時には政治力を使ってその審査官を排除した。

 このように、経営者が現場の技術者や労働者、またFAAを軽視したことが、設計不良隠蔽によるB737MAX墜落事故およびその後の品質管理問題を招いたといえる。現在のボーイング社の経営危機は、企業風土を改悪した誤った経営による、いわば自業自得の代物だ。

新たなCEOの下で復活か、破産法の適用か

 B737MAX墜落事故当時のミュイレンバーグCEOは、事故が起こって間もなく、ドナルド・トランプ大統領(当時)に電話し、「B737MAXが安全であること」を直訴している。その後、事故原因が明らかになって同CEOは引責辞任したが、その際、退職金などとして最大6000万ドル(約90億円)を受け取った。その後、CEOを引き継いだデビッド・カルフーン氏も1月のアラスカ航空の事故を受けて8月に退任し、同様に4500万ドル(約71億円)の退職金を受けている。