「納品した」「されてない」日通・アクセンチュア、開発頓挫の訴訟がエグ過ぎる

要件定義が8~9割方、左右する

 結合テストフェーズにおいて「納品物を納品した」「納品されていない」という点でベンダと発注元の間で認識の齟齬が生じるというケースは、よくあるものなのか。また、前出「日経クロステック」記事によれば、結合テストでの打鍵テストで大量の不具合が見つかったと日通側は主張しているとのことだが、結合テストフェーズで発注者が開発中のシステムの打鍵チェックを行い、発注者が不具合だと認識する部分が多数みつかり、不具合が修正されるまで発注者が検収を行わないというケースは、よくあるものなのか。

「あまりないケースといえます。結合テストフェーズでは、あらかじめ発注者とベンダがどのようなテストを行うのかというテスト項目・条件を取り決め、それに沿って進めるので、ベンダにとってみれば、それとは別に発注者が行う打鍵チェックに起因する事柄については、結合テストとは関係がない話です。なので納入は行ったと主張するアクセンチュアとしては、日通側が検収を完了しようがしまいが、もしくは納品されたという認識なのかどうかは関係なく、両者で取り決めたテスト項目については作業をすべて行ったので仕事は完了したという認識なのかもしれません。

 先ほどの話とも重なりますが、発注者が実装すべき要件をきちんと洗い出せていなかったために、テストフェーズで打鍵チェックをして『あれもない、これもない』と主張しても、それはテストとは別の話ということになります。プロジェクトがうまくいくかどうかは、要件定義が8~9割方、左右するといっても過言ではありません。今回の事例は、発注者とベンダのコミュニケーションがうまくいっていなかったプロジェクトの典型例ともいえます」

発注側とベンダの間で食い違う見解

 大手SIer社員も、今回の事例は非常に珍しいものだという。

「『日経クロステック』記事を読む限り、アクセンチュアは結合テストまで完了して成果物を納品したという見解なのに対し、日本通運は納品されていないという見解で、真っ向から食い違っています。アクセンチュアの主張によれば、日本通運は当初、検収を拒否したとのことですが、考えられるケースとしては、アクセンチュアは不具合だと考えていない部分を日本通運は不具合だと主張し、その点について合意に至らないまま納期を迎え、アクセンチュアは開発は完了したと主張し、日本通運は不具合が改修されていないので完了していないと主張しているというかたちです。部分部分について『これが不具合か、そうではないのか』をめぐり発注側とベンダ側の見解が食い違うというケースは珍しくないですが、大抵はベンダが発注側から言われるままに改修したり、追加費用の契約をして改修したり、改修不要としてそのままにしたりするので、納品が完了したかどうかという点で揉めるということは、あまり聞いたことがありません。

 テストフェーズでは通常、発注側とベンダの間でテスト項目や合否の基準を予め決めておくものなので、今回の事案ではその点がどうなっていたのかが気になります。要件定義や基本設計・詳細設計のフェーズで細かい各項目について合意していても、開発が進んでいくなかで発注側とベンダの間で『これは要件になかった追加項目ですよね?』『これは設計で決めた内容と違いますよね?』などと見解の食い違いが生じるもので、生じないプロジェクトなんてないといっていいくらいです。ベンダ側の詰めや確認が甘かったり、発注側が社内の各部門の要件をきちんとまとめきれていなかったりと、さまざまな原因があげられます。発注側のプロジェクトマネージャー(PM)やプロジェクトリーダー(PL)が社内の各部署の要件をしっかりと把握して、現状からの変更も含めてシステムと業務プロセスを策定して社内の合意を得て、それを正しくベンダに伝えるというのは、かなり大変な作業なので、発注側のPMにそのようなスキルがないと、プロジェクトがうまくいかないということになりがちです。