スタバ米国本社は業績不振と経営混乱が続いている理由…「ただのコーヒー店」化

スターバックスコーヒーの商品
スターバックスコーヒーの商品

 日本では好調という印象が強いコーヒーチェーン大手スターバックスコーヒーだが、意外にも米国本社は業績不振でCEO(最高経営責任者)が更迭されるなどして経営混乱が続いている。なぜ日本と米国でそのような対照的な状況となっているのか。専門家の見解を交えて追ってみたい。

 日本でシアトル系コーヒーチェーンの草分け的存在であるスターバックスコーヒーの国内1号店が東京・銀座の松屋通りにオープンしたのは1996年。当時は珍しかった店内禁煙で、かつ競合する国内カフェチェーンより割高な価格設定という逆張り戦略を取り、落ち着いた店内でフラペチーノをはじめとする多彩なスイーツ系ドリンクも楽しめることが若い女性客などから高い支持を得て、瞬く間に店舗数が増加。2013年に1000店舗、19年には1500店舗を達成し、いつしか首位だったドトールコーヒーショップを逆転。現在、国内では1948店舗(6月末現在)を展開し、2位のドトール(エクセルシオール カフェなど含む)に600店以上の差をつけて店舗数では圧倒的1位となっている。

 国内運営会社のスターバックスジャパンは非上場のため財務情報を公表していないが、「既存店は売上も客数も好調に推移しているようで、高価格帯の季節限定メニューも売れているので、業績は好調だとみられる」(外食チェーン関係者)。

サードプレイスとしての顧客とのタッチポイントが減少

 スターバックス米国本社は中国・ロシア・欧州・アジア・中東・南米など世界中に3万8000店舗以上を展開する世界最大のコーヒーチェーン。23年10月期は売上高359億ドル、営業利益58億ドルと、ともに過去最高を更新するなど好調だったが、今年に入り変調の兆しが見え始めている。1~3月期、4~6月期の決算は2四半期連続で前年同期比減に沈み、客足を向けさせるために日本のスタバではあまり行われない値下げキャンペーンや割安なセットメニューの投入を行うなどして浮上を図ったが、目立った成果は出ず。昨年3月に就任したラクスマン・ナラシムハンCEOに対する株主の投資ファンドなどからの圧力も強まり、今月にはナラシムハン氏が事実上更迭された。後任にはタコベル元CEOのブライアン・ニコルCEOが就任したが、昨年11月には同社従業員らが加入する労働組合が数百店舗(労働組合側の発表)でストライキを実施するなど、労使間の対立も深刻化している。

 米国スターバックスの業績が低迷している原因は何であると考えられるのか。外食・フードデリバリーコンサルタントの堀部太一氏はいう。

「4~6月期の既存店売上高が2%減と3年ぶりの減少となりましたが、細かくみると北米は3%減、その他の地域は5%減となりました。スターバックスといえば顧客にサードプレイスを提供するというコンセプトを重視していましたが、現在、北米は売上の約7割がドライブスルーとなっており、そうなると店舗は“単にコーヒーやフラペチーノが飲めればよい場所”に化してしまう。外食業界全体でインフレが進むなかで、徐々に競合他社との競争に巻き込まれ、加えてドライブスルー利用の増加やウーバーイーツ開始によって
サードプレイスとしての顧客とのタッチポイントが減り、消費者にしてみれば“あえてスタバを選ばなければならない理由”が薄れたことも売上減の要因の一つだと考えられます。

 2つ目の要因は中国市場です。中国では同国資本のラッキンコーヒーが躍進して、同国内の店舗数でスターバックスを抜きました。国内コーヒーチェーン1位の座を獲得すべく、新規出店時には赤字覚悟でとにかく新規出店と値下げの攻勢をかけるという戦略を進め、スタバの客を奪っていきました。このように北米以外の市場で競合他社の台頭に押されていることも要因として挙げられます」

日本のスターバックスのこれから

 では、日本のスターバックスも勢いが失速して業績が反転する可能性があるのか。可能性があるとすれば、どのような要因が考えられるのか。

「その可能性があるとすれば、要因は2つ考えられます。コーヒー豆の仕入れ価格や人件費に上昇に伴い価格が徐々に引き上げられていくと、観光客が多いエリアやオフィス街の店舗は大丈夫かもしれませんが、地方都市や郊外の大型店では“価格の許容範囲を超えた”と判断されて客離れが起きる可能性は考えられます。コメダ珈琲店やドトール、コナズ珈琲など他チェーンやより割安な価格帯の競合店も多数存在するため、他チェーンとの競争に巻き込まれてしまうリスクはあります。

 もう一つの要因としては、現時点では店舗数でもスターバックスが圧倒的な存在であり強力な競合相手といえる存在はいないものの、長期的にみた場合に、中国におけるラッキンコーヒーのような強力なライバルが台頭してくるというリスクはゼロではないでしょう」

(文=Business Journal編集部、協力=堀部太一/外食・フードデリバリーコンサルタント)