いわゆる“物流の2024年問題”により、運送業が続々と倒産し始めているとの観測が広がっている。東京商工リサーチによると、2023年度の道路貨物運送業の倒産件数が345件(前年度比31.1%増、前年度263件)で、3年連続で前年度を上回ったという。かねて物流業界ではドライバー不足が懸念されており、特に“ラスト1マイル”の配達をどのように工面するか、各業界が知恵を絞ってきた。そんななかで浮き彫りになった運送業の苦境だが、専門家は、2024年問題と倒産ラッシュは切り分けて考えるべきと苦言を呈す。
2024年4月から、トラックドライバーの時間外労働の960時間上限規制と改正改善基準告示が適用された。その結果、一人当たりの労働時間が短くなり、輸送能力が不足し、物流が停滞することが懸念されてきた。これは数年前から「物流の2024年問題」といわれ、多くの分野に甚大な影響が考えられることから、ロボットやAIを使うなど、さまざまな対策が練られてきた。
しかし、状況は改善される気配がみられず、それどころかトラック以外にもタクシーやバスなど、ドライバー不足は加速する傾向にある。
そんななか物流業界で倒産が相次いでいると報じられ、“ついに物流業界が破綻し始めたか”と懸念する向きが増えている。だが、物流ジャーナリストの坂田良平氏は、物流業界で相次ぐ倒産と2024年問題を紐づけるのは間違いだと言う。
「残業規制によってドライバー不足が起こっているのは確かですが、この2024年問題をビジネスチャンスととらえている企業もたくさんあります。したがって、業界全体が落ち込んでいるとみるのは間違いです。
物流業界で倒産が増えているのは確かですが、2024年問題とは別問題だと思います。倒産の最大の要因は原油高です。軽油の価格が高騰したことで運送業者の利益が圧迫され、経営が苦境に陥ったわけです。最近になってようやく荷主が値上げを認める流れになってきましたが、これまでは値上げ交渉が進まなかったという事情があります。
また、物流業界に限らず多くの業界で人手不足になっているため、採用費も高騰しています。かつては地元の新聞に折り込みチラシを入れるだけでドライバーを確保できていた企業も多くありました。その際の広告費は3万円程度で済んでいましたが、今、リクナビなどの求人サイトに広告を出すと50~200万円くらいかかります。そんななかで他社に先んじてドライバーを確保しようとすれば、給料などの待遇面を良くしなければならず、人件費は高騰します。
さらに、コロナ禍で仕事がなくなった企業も多くありますが、その際、政府は無利子で経営資金を貸し出していました。その返済が始まったなか、経営状況が改善せず、倒産という選択をしている企業が相次いでいる、というのが現状なのではないでしょうか」
物流業界において倒産が相次いでいる、という調査結果が報じられると、安易に2024年問題と結びつけて考えてしまうが、そもそも新型コロナウイルスの感染が拡大した2020年頃から企業経営にダメージが与えられており、そのまま苦境から脱することができなかった企業は倒産せざるを得なくなったとみるのが現状としては適切なのかもしれない。
それでも、まったく2024年問題の影響がないわけではない、とも坂田氏は言う。
「コロナ禍が明け、社会が正常化してきたなかで、すぐに以前と同じように仕事が回るわけではありません。ドライバーの残業を減らすことが義務付けられ、それでも給料は維持しなければなりません。そのために、荷主たちと運賃値上げ交渉をすることなどに精力を注ぐことができずに廃業している事業者があることも事実です」
物流業界で相次いでいる倒産は、“現時点においては”2024年問題が直接的な原因ではないが、今後、影響が出てくる可能性は否定できない。コロナ禍以降、政府や金融機関が各企業に対して行っていた無利子や低利子での融資も、その返済が経営に影を落とすことは十分に考えられる。当面は注視しなければならないだろう。
(文=Business Journal編集部、協力=坂田良平/物流ジャーナリスト)