日本では非IT企業がシステムを構築する際には外部のシステム開発会社やSIerに委託する形態が一般的だが、家具製造・販売チェーン大手・ニトリが業務で使用するシステムをすべて内製している点が注目されている。同社が内製化にこだわる理由は何か、また、内製化のメリットとは何か。専門家の見解を交えて追ってみたい。
国内外に約1000店舗を展開する国内家具販売チェーン1位のニトリホールディングス。2023年3月期まで36期連続で増収増益を続けるなど業績は好調で、売上高は8958億円、純利益は865億円(24年3月期)、グループ従業員数は約5万7000人(24年3月末現在)におよぶ巨大企業だ。
それだけに製造・在庫管理・物流・販売に関するシステム開発の規模は大きいが、7月10日付「ITmedia NEWS」記事によれば、ニトリは基幹システム(フルスクラッチ)や公式モバイルアプリ「ニトリアプリ」、倉庫管理システムなどすべてのシステムを内製で構築しているという。そのDX推進、システム構築・運用を担っているのがニトリホールディングス子会社のニトリデジタルベースだ。
「一般的に企業がシステム子会社をつくるのは、システム開発を非中核事業と位置付けてコスト削減のため外部に切り出すのが目的であり、システム子会社の給与は本体会社より低めになる傾向がある。ニトリの場合は事情が逆で、優秀なエンジニアを採用しようとすると高めの給与体系にする必要があり、ニトリ本体の他部署の社員とのバランスが取れなくなってしまうため、システム子会社を設立してそこでエンジニアを雇うという形態にしたといわれている。それだけニトリがIT投資を重要視しているということだろう」(大手SIer社員)
なぜ日本では、企業はシステム構築を内製ではなく外注するケースが多いのか。データアナリストで鶴見教育工学研究所の田中健太氏はいう。
「IPA(独立行政法人情報処理推進機構)の調査によれば、システム開発を外注する企業の割合は米国では約30%なのに対し、日本では約60%となっています。外注するケースが多い理由としては、企業がシステム構築を本業ではなく、あくまでメインの事業をサポートするものだと位置づける傾向にあることが挙げられます。そのためシステム構築に人員も予算も多くを割り当てられないとして、必要な際に外部へ発注することになります。
一方、米国の特にBtoC企業は、日々早いスピードで変化する消費者のニーズに応じてシステム面で新しい機能を追加したり修正を加えていくためには内製化が必要だと考える傾向が強いようです。
このほか、米国は人材の流動性が高いため、大きな開発プロジェクトが終了したらエンジニアは他社に行ってくださいというかたちにしやすいですが、日本では一度雇用した人員を容易に切れないため、内製化を前提に多くの人員を抱えることが難しいという背景もあります」
内製のメリットは何か。
「ユーザのニーズの変化にスピーディーに対応してアジャイル的に開発を進め、1カ月に何度も新機能をリリースするには、自社で内製できる体制を確保しておいたほうがよいでしょう。いちいち外部の開発会社を使っていては、そのたびに費用見積もりを出してもらって社内で稟議を通し発注をしなければならず、スピード感を持った対応が難しくなります。また、IT部門を社内に置いて経営の意思決定との距離を近くしておいたほうが望ましいことは確かでしょう」(田中氏)
外注にもメリットはあるという。
「外注のデメリットとしては、対応が遅くなるのに加え、業界の慣習である多重発注によりコストが割高になる点があげられます。一方、メリットとしては、SIerには数多くの顧客企業の開発を行ってきたことにより蓄積された豊富なノウハウがあり、さまざまな分野に強い専門的な人材もいるため、有益な提案を受けることが期待できます。他社のノウハウを活用することで、より良いシステムを実現することにつながります」(田中氏)
(文=Business Journal編集部、協力=田中健太/データアナリスト・鶴見教育工学研究所)