書籍の内容を音声で聴くことができるオーディオブックの国内2大サービス、「audible(オーディブル)」「audiobook.jp(オーディオブック)」の利用者が急増している。背景に何があるのか。インターネット業界関係者や利用者の声を交えて追ってみたい。
世界では米国で先行して普及していたオーディオブックは、国内では「audiobook.jp」を提供するオトバンクが2007年に開始した「FeBe」が初の本格的な専門サービスとみられる。日本能率協会総合研究所のレポートによれば、2011年以降にスマートフォンの普及とともに利用者が増加し、18年度には50億円に満たなかった市場規模は24年度には260億円になる見込みだという。
15年に15万人だった「FeBe」の会員数は、18年の「audiobook.jp」への名称変更を経て今年2月には300万人を突破。22年6月の250万人から約半年で約20%の増加となっている。
国内市場の拡大に大きく影響したとされるのが、15年に米アマゾン・ドット・コムがオーディブルのサービス提供を日本で開始したことだ。22年に聴き放題サービスに移行した後に利用者は急増し、21年12月から23年12月までの約2年間で利用者は約2倍に増加した。
「2000年にオーディブルを使ってみたことがあるが、使い勝手がイマイチでまだ試行版なのかなという印象だった。サービスとしても日本語作品のラインナップとしてもaudiobook.jpのほうが上だったが、現在ではどちらも遜色なしといってよい」(中堅IT企業役員)
両者のサービスを比較してみると、どちらもスマートフォン(OS:Android、iOS)やPCにダウンロードして聴くという形態は同じじ、「audiobook.jp」の料金は聴き放題の月額プランが1330円で、年額一括前払いだと年額9990円(月額833円)。チケットプランはシングル(チケット1枚)が月額980円、ダブル(同2枚)が月額1980円。チケット1枚と引き換えに対象作品1本を入手し、チケットプランで購入した作品はサービス解約後も聞くことが可能。毎月500円分のポイントが付与され、作品の購入に充てることができる。
「audiobook.jp」は日本マーケティングリサーチ機構が発表した23年11月の調査結果で「オーディオブック書籍ラインナップ数 日本1位」「ビジネス書籍ラインナップ数 日本1位」となっており、ビジネス書に強みを持ち、日本語書籍ラインナップ数では国内1位のもよう。
一方、「オーディブル」の聴き放題プランは月額1500円で、聴き放題対象作品は20万作品以上に上り、外国語の作品が多い。作品の単品購入も可能で、会員は非会員価格の30%引きで購入可能。「世界最大級のオーディオエンターテインメントサービス」を謳っており、文芸作品など幅広いジャンルに力を入れているほか、有名俳優・声優をナレーターに起用した作品を拡充したり、お笑い系をはじめとする多彩なポッドキャストも提供している。昨年には『ノルウェイの森 』(朗読:妻夫木聡)や『猫を棄てる 父親について語るとき』(朗読:中井貴一)など村上春樹の作品や、『贖罪』(朗読:小池栄子)や『Nのために』(朗読:榮倉奈々)など湊かなえの作品を多数配信することを発表した。
「audiobook.jpが一般的なオーディオブックに特化しているのに対し、オーディブルはバラエティやアニメ、アスリートのポッドキャストやマーベル作品のコンテンツを扱うなど、オリジナルコンテンツも含めて既存の書籍の音声化という枠を超えて総合的な音声コンテンツサービスを展開しようとしている。現状では国内のオーディオブックのユーザーは『何かをしながら書籍の内容を聴きたい』というニーズにとどまっており、今後どこまでリッチかつ多彩な形態の音声サービスを求めるのかは未知数。radikoやYouTubeなど他の音声関連サービスが存在するなか、とりあえずオーディオブックは手軽に書籍の内容を聴ければよいというニーズにとどまる可能性もある」(デジタルマーケティング会社プロデューサー)