外国債券(株式も含む)を運用している方なら『円安の恩恵で損失が目減りするのでは?』と思われるでしょう。しかし金融機関の債券取引は基本的には為替リスクを抑えるため為替ヘッジが行われていますから、円安による為替差益はないのです。とはいえ、債券が含み損になったとしても債券を満期まで保有し続ければ(債券発行体に問題がないか限り)元本が手元に戻ります。さらに、市場金利よりは安いかもしれませんが、金利収入もあることから、無理に売る必要もないのです。
それでも農林中金は債券を売却し実現損として損失を計上するのです。それには、JAバンクから資金を調達していることが関係しています。農林中金はJAバンクの預金を再度預かっていることから、円建てで資金調達をしています。そこからドル建てで資産運用するためには、ドルを借りて為替をヘッジする必要があります。ドルを借りる際の金利も市場金利に連動していることから、借入金利も高くなっています。一方で、運用している債券の金利は低いままなので、運用金利が借入金利を下回る『逆ザヤ』状態になるのです。そこで、金利が安い時(価格が高い時)に買った債券を売却することで、逆ザヤ状態を抜け出すために債券売却の判断に至ったのです」
注目されているのが農林中金の運用資産構成だ。債券が5割を超える一方、株式はわずか3%となっている点について、一部ネット上では以下のように疑問の声があがっている。
<株と債権どっちにもヘッジしてバランス取るのが普通なんだが。特にアメリカ株は天井近いし>
<近年の相場で損するって素人でも難しい>
<この時合でマイナス出すとか絶望的にセンスない>
<この相場で海外投資してどうやって負けられるの>
<空前の株高なのに>
この運用資産構成をどう評価すべきか。
「短い間に大幅に金利が上昇したことが損失の原因ですが、多くの金融機関にとって想定外の事態だったと考えます。一方で、メガバンクや日本最大の機関投資家であるGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)は株式も運用しながら、債券の損失をカバーしています。今後の農林中金は債券に偏りすぎた運用を見直し、株式などもバランスよく運用ポートフォリオに加える動きになる可能性があります」(佐々木氏)
過去の大きな失敗も影響しているという見方もある。
「2008年のリーマンショックの際に農林中金は米国の低所得者向け住宅ローン投資で巨額の損失を出し、その年度の決算は5000億円超の最終赤字となった(09年3月期)。今回の債券の含み損による赤字を受けて農林中金はJAを引受先として1.2兆円の資本増強を行うとしているが、リーマンのときもJAを引受先として1.9兆円の資本増強をした。この失敗を受けて変動リスクが高いとされる株式を減らし、低リスクとされる米国債をはじめとする海外債券を増やしたが、あまりに極端なポートフォリオになって高金利に耐えられない資産構成になってしまった。そこに世界的な金融緩和の縮小による金利上昇が始まり、火を噴いたということ。
組織の性格的に幅広く企業への投融資ができないなかで、預金で集まった巨額の資産を運用してなんとか一定の利回りを確保しなければならないという特殊事情を抱えていることは理解できるものの、素人的との誹(そし)りは免れないだろう」(メガバンク行員)
農林中金はリーマンショックの以前にも、運用が問題視されたことがある。1995年の住宅金融専門会社(住専)問題では、農林中金をはじめとする農林系金融機関から5兆円以上の資金が住専に入り、住専がそれにより不動産融資を拡大させ、生じた8兆4000億円に上る不良債権の処理のために6850億円の公的資金が投入された。当時、農林中金の無責任な投資による損失を穴埋めし、さらに農協を保護するために多額の税金が投じられたとの批判がわきあがった。そのため、ネット上では
<農中は何回救済すりゃいいの?>
<住専にリーマンショックで今回と10~15年に1回ペースで兆円規模のやらかしを繰り返してる>
といった声もあがっている。
(文=Business Journal編集部、協力=佐々木悠/つばめ投資顧問アナリスト)