EV(電気自動車)の所有者がバッテリー交換をしようとしたところ、8モジュールすべてを交換すると約380万円もかかると言われたとネット上に投稿。これに対し「車をもう1台買える」「バッテリーへたる前に次の買うべき」などさまざまな声が寄せられ、話題を呼んでいる。EVのバッテリー交換費用がこれほど高額だというのは事実なのか。また、なぜ高いのか。業界関係者の見解を交えて追ってみたい。
環境意識の高まりを受け、数年前から世界の自動車市場はエンジン車からBEV(電動車)へ大きく舵を切っている。先陣を切って野心的な目標を掲げたのが欧州連合だ。2035年までに全ての新車をEVなどのゼロエミッション車(ZEV)にするという方針を掲げている(23年に方針を一部修正)。米国も22年に「インフレ抑制法(IRA)」を成立させ、一定条件を満たすクリーン自動車の新車購入者に対し1台あたり最大7500ドルの税額控除を付与。目標年を明確にして全新車のZEV化を宣言している州もある。
現時点でもっともEV化が進んでいるとされるのが中国だ。欧州(EU)の23年の新車販売に占めるEVの比率は14.6%なのに対し、中国のEVを含める新エネルギー車の比率は32%。中国政府は27年までにこの比率を45%に引き上げる目標を発表している。
だが、EV普及には減速の兆しが強まっている。テスラの24年1~3月期の世界販売台数は前年実績を下回った。欧州では各国で補助金が縮小された影響で、月単位でみるとEV販売が前年比マイナスとなる国も出始めており、2月8日付日本経済新聞記事によれば、欧州市場の22年から23年にかけてのEV販売の伸びは2.5ポイントであるのに対し、HV(HEVのみ)のそれは3.1ポイントとハイブリッド車(HV)のほうが上回っている。また、23年の新車販売に占めるHVの比率は33.5%なのに対し、EVは14.6%にとどまっている。
米国でも政府が3月、普通乗用車の新車販売のうちEVの占める比率を32年までに67%にするとしていた目標を、35%に引き下げ。EVの販売台数がHVを上回る月も出ており、11月の米大統領選の結果によってはEV推進はさらに後退するとみられている。そして日本の新車販売市場におけるEVの比率はわずか2~3%のままだ。
こうした変調を受け、自動車メーカーも目標の見直しに追われている。30年にすべての新車販売をEVにするとしていた独メルセデス・ベンツは2月、20年代後半にxEV(EVとプラグインHEV)の比率を50%にすると下方修正。米ゼネラルモーターズ(GM)はプラグインハイブリッド車(PHV)の生産再開の検討に入ったと伝えられており、2月には米アップルがEV開発から撤退することが明らかとなった。
日本メーカーでも26年にEVを150万台販売するとしていたトヨタ自動車は今月、EVに加えてPHEVを同販売目標に含めると説明し、事実上のEV販売目標の引き下げだとみられている。
EV普及の妨げになっている大きな要因が、高額な価格と充電ステーションの少なさだ。日本では米テスラの「モデルS」は新車時価格が約1300万円で、最も売れている日産自動車の「サクラ」は安いモデルでも約250万円~。購入には国からの補助金が前提となっているのは各国共通だ。また、充電面では充電ステーションの少なさに加え、自宅に充電設備を設置する費用が発生するもネックとなる。
このほか、EVの原材料となるレアアースなど鉱物資源の採掘地が一部の途上国に偏ることで過度の資源調達競争が起きることも懸念されており、すでに大手メーカーのなかにも調達が難航するところも出ている。原材料の採掘から製造、廃棄まで全工程を比べれば、EVのほうがエンジン車より二酸化炭素排出量やエネルギー消費量、鉱物資源の消費量は多いため、EVのほうが環境負荷が低いという前提そのものに懐疑的な見解が増えていることも、EV退潮を増長させている。