企業がシステムをクラウドからオンプレミスに戻す理由について、データアナリストで鶴見教育工学研究所の田中健太氏はいう。
「IT・システムの世界には波があり、この10年ほどクラウド化という波があったため、ここ2~3年でより戻しが生じ、クラウドからオンプレに戻そうとする動きが増えている面はあるでしょう。企業などがクラウドからオンプレに戻す際の理由は大きく3つあります。
1つ目はコストです。実際に使ってみると、当初見込んだほどコスト削減効果が出なかったり、かえってコストが高くなってしまったというものです。
2つ目はパフォーマンスです。遠隔地にある環境をインターネットを介して利用するため、オンプレミスと比較して処理速度が遅くなり、サービスや業務に支障が生じることがあります。また、ここ1~2年でもクラウドサービスの世界規模の大きな障害が起きており、オンプレミスで運用していれば一部の障害で済んでいたものが、クラウドに移行したがゆえにシステム全体が使用できなくなるというケースも出てきます。
3つ目がセキュリティーです。クラウドシステムからの情報漏えい事案も起きており、データ保護の観点で『顧客データは外部システムから遮断されたクリーンルーム化した社内システムで保管している』と説明したほうが、株主をはじめとするステークホルダーから納得を得やすい面もあります」
では、クラウドかオンプレミスのどちらを選択するのかを判断する基準とは何か。
「一概にはいえませんが、クラウドのメリットは低い初期投資でスモールスタートが可能な点なので、たとえばベンチャー企業がゼロから新たなシステムをつくる際には、とりあえずクラウドで始めるというのはありでしょう。一方、オンプレミス上で動いている既存の大きなシステムをクラウドに移行しようとすると、クラウド側のハード・ソフト環境に合わせるためにガラッと中身を作り替えなければならないケースもあるので、オンプレミスのままのほうがよいかもしれません」(田中氏)
もっとも、いったんはクラウドに移行した後にオンプレミスに戻すことになったとしても、その一連のプロセスは決して無駄ではないという。
「クラウドに移行したことで大幅なコスト削減が実現されたり、使い勝手が改善されたりといった成功例も多いのは事実です。また、もし仮にオンプレミスに戻すことになっても、クラウド運用を通じてエンジニアに蓄積された新しい開発手法や大規模システム管理のノウハウ・知識は、企業にとって大きな財産となります」(田中氏)
(文=Business Journal編集部、協力=田中健太/データアナリスト、鶴見教育工学研究所)