ここ10年ほど続くクラウドブームを受け、システム運用をオンプレミスからクラウドサービスへ移行する動きが広がるなか、いったんはクラウドへ移行したもののオンプレミスに戻す企業も出始めている。その理由は何なのか、そして浮き彫りになりつつあるクラウド導入のデメリットとは何か。専門家の見解を交えて追ってみたい。
自前でサーバなどのハードウェアを保有・構築してシステムを運用するオンプレミスに対し、専用事業者が保有するシステム環境をインターネット経由で利用するクラウドコンピューティング。米アマゾン・ドット・コムは2006年に企業向けクラウド「Amazon EC2/S3」を、米グーグルは08年に「Google Cloud Platform」を、米マイクロソフトは10年に「Microsoft Azure」を提供開始し、世界的に普及。日本では2000年に米セールスフォース・ドットコムが日本法人(現セールスフォース・ジャパン)を立ち上げていたが、2000年代後半頃からクラウドを導入する企業が一気に増大。米国勢の後を追うように国内大手ベンダもこぞってクラウド事業に注力するようになり、国や自治体など政府でもAmazon Web Services (AWS)を中心に導入が増えてきた。
一般的にクラウドサービスは以下の4種類に大別されている。
・IaaS(Infrastructure as a Service)
ハードウェアのリソースのみを提供し、OSやミドルウェアなどのソフトウェアは利用者側が準備・構築。
・PaaS(Platform as a Service)
ハードウェアに加え、OS、ミドルウェア、データベースなどベースとなるソフトウェアのリソースを提供。利用者は個別サービス/システムの開発に集中できる一方、IaaSと比べると制約が増え自由度が減る。
・FaaS(Function as a Service)
ハードウェアに加え、OS、ミドルウェア、データベースなどベースとなるソフトウェアのリソースを提供。PaaSと異なり、リクエストの送受信についてもサービス提供者側が管理し、リクエストを受信したタイミングでプログラムが起動され、処理が完了すると終了する。
・SaaS(Software as a Service)
メールや経理・会計、顧客管理システムなど特定の用途のサービスをサービス提供者側が準備・提供。
一般的にクラウドは従量課金の料金システムであり、利用者は使った分だけ支払えばよいのでコスト削減につながるとされる。自前でハードウェアを導入・保有する必要がなく、PaaSであればある程度、開発環境が揃っているためスモールスタートが可能な点も導入する側のメリットとされる。
こうした効果を見込んで多くの企業がオンプレミスからクラウドへの移行を進める一方、クラウドのデメリットや課題が表面化してオンプレミスに戻す企業も目立ってきている。リサーチ会社ノークリサーチが3月に公表したレポート「2024年 中堅・中小企業のサーバ環境におけるクラウド移行とオンプレ回帰の実態」によれば、調査対象となった中堅・中小企業700社では、オンプレミスのシステム導入企業のうち、IaaS/ホスティングから移行したのは6.4%、PaaSからは4.7%、FaaSからは2.9%、SaaSからは3.3%に上る。これらをすべてクラウドとカテゴライズすると、現在オンプレミスのシステムを利用している企業のうち約2割がクラウドから移行されたということになる。