大手ECサイト運営会社アマゾン・ドット・コムの物流倉庫の休憩室に設置された自動販売機に監視カメラが内蔵されており、社員の様子を撮影していたことが問題となっている。米国メディア「Sahan Journal」の報道によれば、米国ミネソタ州の倉庫で発覚し、アマゾン側はカメラの誤作動によるものだと説明しているものの、現地の労働団体などが問題視している。アマゾンといえば、かねてから社員の労働を「監視」しているという評判が根強いが、その背景には何があるのか。専門家の見解を交え追ってみたい。
アマゾンの社員監視の厳しさは、政府も対応に乗り出すほどのレベルだ。アマゾン倉庫では従業員によるスキャナーの利用履歴をデータとして保管・分析し、従業員の評価や教育、業務効率の向上などに活用しているが、フランスの情報保護機関(CNIL)は今年1月、過度な監視システムを導入するなど一般データ保護規則(GDPR)違反があるとして、同社に罰金3200万ユーロ(約51億5000万円)を課すことを決定した。CNILは、アマゾンのデータ保管期間が1カ月もの長期になっている点についてGDPRに違反していると判断。また、
・スキャンの間隔が1.25秒以下になるとエラーが表示される
・10分間スキャンしないと、動作していないとみなされる
・1~10分間のスキャン中断は「遅延」とみなされる
という措置についてもGDPRに違反していると判断した。
こうした同社の体質の背景には何があるのか。ニューズフロントLLPのパートナーの小久保重信氏はいう。
「コロナ禍でEC市場が活況を呈した2020年から21年にかけ、アマゾンは物流倉庫を新設するなど積極的に投資を行い、世界の従業員数を80万人増やし一気に2倍の160万人にまで膨れ上がった。そうしたなかで習熟度の低い人材でも働けるようにするため、たとえば配達ドライバー向けには、車間距離やシートベルトの装着状況、急ブレーキの利用などさまざまな点を監視して警告を発するといったAIカメラシステムを開発し、配達車両に搭載していった。アマゾンとしては『ドライバーの安全を守るため』というロジックなのだが、極端に効率化を重視する同社はこうしたシステムにAIなど高度なテクノロジーを導入し、さらに評価・教育システムに連動させるため、世間からは『気持ち悪い』という嫌悪感を抱かれやすい面がある。アマゾンが他社と比べて特段に社員への監視が強いというわけではないだろうが、『巨人』すぎるあまり、特に日本では『システムによる自動化』『監視』といったキーワードがことさらに強調されて報道されがちだとも感じる。
結果的にフランスではGDPR違反が認定され多額の罰金を科されることになったが、アマゾンに限らず米国のテック企業には『効果が見込めると思われることは、とりあえずトライしてみて、ダメな点が見つかれば適時修正していけばいい』という風土がある。そしてアメリカは国全体でこうした姿勢を容認する風潮が強い」
アマゾンの業績は回復傾向にある。23年10~12月期の売上高は前年同期比14%増の1699億6100万ドル、純利益に至っては前年同期の38倍にも上る106億2400万ドルとなっている。
「22年半ば頃にはコロナ禍による需要拡大が鈍化し、アマゾンは大幅な人員と設備の余剰に陥り、業績も鈍化した。そこで23年1月までに約1万8000人、同年3月には約9000人を解雇。実店舗型の書店『Amazon Books』や衣料品店『Amazon Style』を閉鎖するなど猛烈な勢いでコスト削減とリストラを進めた結果、23年後半には業績を大幅に回復させることができた」(小久保氏)