昨年末と比べ約5倍にまで高騰していた、さくらインターネットの株価が暴落し、なかにな200~400万円ほどの損を抱える投資家が続出しているようだ。仕手筋の関与を疑う声もみられるが、なぜ同社の株価は乱高下を演じているのか。業界関係者の見解を交えて追ってみたい。
さくらインターネットはインターネットや携帯電話が普及していなかった1996年、当時まだ舞鶴工業高等専門学校の学生だった田中邦裕社長が設立。当初はサーバのレンタル事業を手掛け、ネットの普及と歩調を合わせるかたちで成長し、04年には大阪・堂島データセンターと東京・東新宿データセンターを開設し、主力サービスとなる「さくらのレンタルサーバ」を開始。11年には北海道に石狩データセンターを開設し、クラウド「さくらのクラウド」の提供を開始。昨年には生成AI向けクラウドサービス「高火力」の開発に3年間で130億円規模の投資を行うことを決定し、米エヌビディア製高性能GPU「NVIDIA H100 Tensor コア GPU」を搭載したサーバを石狩データセンターに用意。大規模言語モデルなどの生成AIを中心とした利用を想定しており、今年1月に「高火力 PHY(ファイ)」の提供を開始した。
従業員数はグループ連結で755名(23年3月末)、年間売上高は200億円を超え、東京証券取引所プライム市場に上場するれっきとした大企業だ。
そんな同社の株式が人気を集める材料は「揃いすぎ」といえるほど揃っていた。昨年6月、経済産業省はクラウドプログラムの安定供給確保を図ろうとする者に対して助成金を交付するプログラムにおいて、同社の計画を認定。昨年11月にはデジタル庁が国内勢初の「政府クラウド」提供事業者として同社を選定。同社はその開発に約18億円を投資する計画を経産省に提出し、今年2月には同省は同社に最大約6億円の補助金を拠出すると発表。同社は2024年度に高度な知識を持つ技術者など最大200人を採用する計画を発表するなど、勢いに乗っている。
業績も悪くはない。23年3月期の売上高は206億円、営業利益は11億円、純利益は7億円と前期比で増収増益となっている。
こうした材料に後押しされ、ここ数カ月間、さくらインターネットの株価は高騰。昨年末の2209円から今月7日には上場来高値の1万980円にまで上昇し、約2カ月で5倍ほどの値に。しかし8日以降は一転して下落を演じ連日のストップ安に。14日の10時5分現在、5820円となっている。
懸念材料はあった。1月31日に発表された24年3月期第3四半期連結決算は、経常利益が前年同期比48.1%減の3.2億円に沈んだのだ。24年3月期通期の売上高228億円(前期比10.6%増)、営業利益14.5億円(同32.7%増)の見通しは据え置いているが、第3四半期の累積ベースではそれぞれ157億円、4.5億円となっており、通期決算予想の達成が現実的だとみる向きは少ない。
「政府クラウドの提供事業者として選定されたといっても、それが同社の売上伸長にどれだけ結びつくのかは未知数。同社は2~3年後に年間数十億円程度の売上高をあげるとしているが、政府クラウド導入済みの国・地方自治体の9割はアマゾン・ウェブ・サービス(AWS)ジャパンを選んでおり、すでに発注先が決まっている政府クラウドの一部業務もほぼすべて外資系が取っている。そこに実績がない、さくらインターネットが分け入っていくのは至難の業。また、すでに同社が発表しているクラウド関連への総額1000億円の投資も財務的には重荷になってくる。直近の業績も考慮すれば、株価5倍というのは明らかに実態を伴っておらず、玄人筋は最近の株価上昇に乗じて買うという行動は取っていないだろう」(市場関係者)