先月、半導体装置メーカー・東京エレクトロンの株式時価総額がソニーグループやNTTなどを抜き、1位のトヨタ自動車、2位の三菱UFJフィナンシャル・グループに次ぐ3位に浮上したことが注目されている。東京エレクトロンとは、どのような企業なのか。また、強さの秘密は何なのか。専門家の見解を交えて追ってみたい。
1963年に技術専門商社として創業した東京エレクトロンは、60年代には自社製品の製造にも着手し、86年には半導体製造装置の輸出を開始。3年後の89年には同装置メーカーとして売上高ベースで世界1位となる。現在、特に「前工程」と呼ばれる、シリコンウエハーに回路を描く製造装置に強みを持ち、手掛ける商品はコータ/デベロッパ、エッチング、洗浄、成膜、テスト、ウェーハボンダー/デボンダー、ウェーハエッジトリミング、ウェーハ薄化、SiCエピタキシャル、ガスクラスターイオンビームなど多岐の分野にわたる。半導体製造装置メーカーとしては世界で売上高4位のポジションにあり、塗布現像やガスケミカルエッチングなど計4分野で世界シェア1位、洗浄やプラズマエッチングなど計4分野で同2位を誇り、世界で唯一、パターニングの4連続工程に装置を持つなど、高い技術力で知られる。
24年3月期の売上高は1兆8300億円(前期は2.2兆円)、純利益は3400億円(同4715億円)の予想。世界的に半導体の在庫が積み上がったことでメーカー各社が設備投資を抑制した影響を受け、前期から減収減益になったものの、半導体需要の増大に伴い業績は成長トレンドを描くと予想されている。
従業員数1万7000人(連結ベース)にも上る東京エレクトロンの高い競争力の源泉となっているのが、研究・開発への惜しみない投資だ。国内外14の拠点で開発やコンソーシアムなどとの協業を行っており、25~29年度に計1.5兆円以上を研究開発に投資する計画。さらに今後5年で国内外で計1万人を新規採用する方針を掲げている。
国際技術ジャーナリストで「News & Chips」編集長の津田建二氏はいう。
「同社は先端品から普及品まで商品ラインアップが幅広く、普及品が多い中国向けが全売上の4割以上を占めており、昨年は世界の半導体市況のリセッションが続くなかで中国の旺盛な需要が同社の業績の下支えとなった。同社の強さの要因の一つは、日本の半導体メーカーの凋落を受けて、迅速に海外メーカーからの受注獲得に転換したこと。海外売上比率は8割を超えており、台湾積体電路製造(TSMC)や韓国サムスン電子など大手半導体メーカーにも東京エレクトロンの製品が数多く導入されている。ターゲット顧客を競争力が低下する日本企業から海外市場に転換するというのは、現在うまくいっている企業の共通点であり、輸出で稼ぐという日本経済の構造は変わっていない。
もう一つの要因は、社員に利益を還元しているという点だ。好業績を受けて22年の夏の賞与の平均支給額を平均300万円以上に引き上げるなど、きちんと利益を社員に還元する姿勢をみせており、そうなれば社員も頑張る気になる。ダイバーシティへの取り組みにも積極的で、女性社員の比率が高いことも同社の特徴といえる」
待遇改善面では、24年4月に入社する新入社員の初任給を一律約4割引き上げると発表したことが話題にもなった。
そんな東京エレクトロンの株価も好調だ。米エヌビディアの好決算の発表を受け半導体関連企業の株価が軒並み上昇した22日、東京エレクトロンの終値は前日比6%高の3万6580円、時価総額は17兆2523億円となり、ソフトバンクグループ(SBG)や任天堂、三菱商事や伊藤忠商事などの総合商社などを差し置いて国内3位に浮上したのだ。
前出・津田氏はいう。
「ChatGPTをはじめとする生成AI(人工知能)の普及もあり、画像処理半導体(GPU)を含む半導体の需要は今後さらに増大する。そのため、半導体関連株は軒並み上昇しており、東京エレクトロンの株価も上昇するとみられる」
また、金融業界関係者はいう。
「2015年には業界2位の米アプライドマテリアルズとの経営統合が破談となり、競争激しい業界でひとまずは独力での生存・成長の道を探る格好となったが、東京エレクトロンの将来性を占う要素は明るい材料ばかりで、加えて研究開発への投資も堅実かつ積極的に行っている。よって、同社の株価は現在でもまだ割安感があり、さらに上昇すると予測される」(2月29日付当サイト記事より)
(文=Business Journal編集部、協力=津田建二/国際技術ジャーナリスト)