半導体メーカー大手の東京エレクトロンが、2024年4月に入社する新入社員の初任給を一律約4割引き上げると発表したことが業界内外問わず大きな話題になっている。半導体市場は世界的に需要が高まっており、同社の業績も好調であるとはいえ、なぜこれほど大幅に引き上げることになったのか。
求人紹介&就業サポートを行う株式会社UZUZの専務取締役、川畑翔太郎氏に話を聞いた。
「今回、東京エレクトロンが新卒の給料を大幅に上げることを決めたということですが、そもそも経済界全体として、新卒の給料は低く抑えられています。30年前に、日経連(現経団連)が新卒の給料を据え置く方針を提言し、それが今日まで連綿と続いて生きているのです。しかし、特にここ1~2年、“新卒の価値”が高まっており、争奪戦が激化しています」
新卒を採用するためとはいえ、東京エレクトロンは競合他社と比べても給料は悪くない。年収ベースで見れば、外資系企業にも引けを取らないといわれている。それでも給料を引き上げた理由は何か。
「待遇がこれだけよい、ということを目立たせる必要があるのだと思います。特に理系人材は各業界で引っ張りだこです。今後想定される採用費の高騰、採用難易度の急上昇に対する早めの投資として、採用人件費を大幅に引き上げたということでしょう」
業績が好調な今、先を見越して人材に対して大きな投資をするということなのだろうか。
「業績が良くなくても、今やそれだけの投資をしないと良い人材を取れなくなっていると判断していると思います。仮に利益を切り崩してでも、今は人件費に投資するタイミングだといえます」
それは、半導体業界の競争が激化しているからだろうか。
「台湾積体電路製造(TSMC)の熊本進出を意識しているのは間違いありません。理系人材の取り合いになっています」
理系の人材は、新卒に限らなければ見つかるのではないだろうか。なぜ新卒ばかりクローズアップされているのか。
「昨今の産業構造が変わってきたことが背景にあります。たとえば、40~50代の社内人材を産業ニーズに合わせてリスキリングして新しい仕事に就いてもらうよりも、新卒社員にゼロから仕事を教えるほうが覚えも早く、コスパは極めて良いといえます。その傾向が顕著になってきているのではないでしょうか」
半導体の業界は好調さを背景に給与水準が上がっているが、ほかにも給料が上がっている業界はあるのだろうか。
「だいたいどの業界も上がっていると思いますが、企業規模によって昇給率は異なります。特に大企業は元々昇給余力があったと思うので、人手不足が顕著になる前に上げています。とはいえ、給料だけで企業を選ぶと痛い目に遭うので注意も必要です。というのは、いわゆるブラック企業の中には高い給料で人材を釣っているところもあるからです」
ブラック企業であるか否かは、どのように見極めればよいのだろうか。
「ブラック企業か否かは、簡単に見極められません。実際に入社してみなければ実態がわからないことも多いからです。そのため、同業企業と労働条件や働き方を比較したり、口コミなどを調べることが大切になってきます」
政府はこの数年、経済界に対して賃上げを求め続けてきた。その結果、厚生労働省が発表した「民間主要企業春季賃上げ要求・妥結状況」によると、2023年の賃上げ率は30年ぶりに3%台を記録した。さらに岸田文雄首相は1月22日、経済界や労働団体の代表者と意見交換する政労使会議に出席し、2024年春季労使交渉(春闘)で「昨年を上回る水準の賃上げ」を求めた。
この賃上げ効果を実感しているのは、まだ上場企業社員など一部の労働者に限られているだろう。今後、中小企業に至るまで好況感を得られるほど景気が上向いてくることを期待したい。
(文=Business Journal編集部、協力=川畑翔太郎/株式会社UZUZ専務取締役)