日本市場はユニクロだらけになる…私が提唱する東京ショールーム戦略とは

 それでは、なぜ「在庫の一元化」は在庫の極小化に貢献するのだろうか。答えは簡単。店舗の評価を売上で見ているからだ。

 店長やエリアマネージャと呼ばれる人たちは、売上をできるだけ多く上げれば出世もするしボーナスも出る。そうなると、何より最初にやるのは、「在庫の確保」なのである。思い切った言い方をすると(実際はそんなことはないが)、「売れ残っても大丈夫。アウトレットにまわせば、彼らがうまくやってくれるだろう。自分たちは売れる在庫をとにかくたくさん確保しなければならない」ということになる。

 力のある店舗は実績が伴い、在庫の取り合いがあれば優良在庫は売れる店へと優先的に回され、ますます店舗の評価に明暗がつくのだ。このような力学が働く場で、それぞれのエリアなり店が独自に売る分だけの在庫を持ったらどうなるか。

 例えば、日本で500店舗持つアパレル企業があるとしよう。その1店舗、1店舗が在庫を積み増して発注するわけだから、日本全土でみれば恐ろしいほどの余剰在庫が積み上がることになる。これを一元管理して、FIFO (先に売った店が優先的に引き当てできるルール)で、総在庫の管理がシンプルになり余剰在庫も最小化されるわけだ。

 そうなると、次に心配なのは欠品による機会損失である。しかし、これは、LOUIS VUITTON(ルイ・ヴィトン)などのお店に行けばよくわかるが、店頭で接客用に見せる在庫(この在庫は売らない)はフルセット揃えておき、販売する在庫は倉庫に一元的に管理しておかれ、最初に販売した店から出荷されるルールにする。これが、「売らないお店」の基本コンセプトなのである。

“Tokyoショールーム戦略”

 ここまで読んで、「なるほど、売れないお店によって、悪い在庫を極力最小化できるのか」と感心していないだろうか。それ以上に、そもそも、あれだけ売れて仕方なかった時代が過ぎ、日本のアパレルの超デフレ化がおき、韓国や中国から1000円、2000円という、私のように昭和の人間にとってはついて行けないほどの低価格で、特に“Z世代”と呼ばれるファッション購買セグメントのハートをがっちり掴んでいるのだ。

 つまり、これからのファッション産業の大部分は、アジアのD2C(Direct to Consumer)企業(アジアは世界のアパレルの工場で、その工場が自分で商品を売り出した)にやられてしまうことになり、低価格化と外資企業の越境ECと呼ばれる国をまたいだEC販売で、市場は小さくなってゆく。加えて、人口減少、失業、所得の減少などファッションなどに使える金は若者には残されていない。そうなると、比較的安価で長く着られるユニクロのような服が一層強さを増し、日本市場はユニクロだらけになるというのが私の見立てである。

 こうしたなか、「売れないお店」だけでいいのか、というのが、私が立てた第一命題である。一般的にリテール産業は、内需型産業といわれているが、今日本では、企業は必用な量の倍も服をつくり、それらの多くがダブルショウキャクによって企業の利益を悪化させているのだ。そして、こうした状況を避ける方法は、論理的に二つしかない。

 それは、ファッション衣料製品からファッション雑貨などへ「売る商品」を替えるか、日本市場だけでなく海外市場に売るという「市場」を替えるかのいずれかである。

 売る商品を替えるのは、たやすいことではない。なぜなら、アパレルの多くは製造業だからだ。やはり、ここは韓国や中国が日本市場に入ってきているように、我々のデザインした服を世界に売ってゆくことが残された道である。これが、私が提唱する「売らない店」ならぬ、「売らない国」なのだ。