建材をあらかじめ工場で加工しておくプレカットにより、一般消費者の住宅取得価格がそれなりに下がった部分はある。しかし、ここ数年の円安による材料費やエネルギーの高騰などで、実は大手ハウスメーカーの住宅はかなり高くなっている。
「住宅でも大手は大工の社員化を進めようとしており、処遇の改善も同時に進めようとするような動きもあるが、住宅建設でメジャーなのは工務店による在来の木造住宅であり、そちらはまったく進んでいない。工務店の多くは『努力して辛い思いをするなら余裕のあるうちに店は閉めよう』と考えているかもしれない。大工は現時点で4割が60歳以上なので、何もしなければ店を続けることはできない」(蟹澤教授)
今後、大工がさらに減少して困るのは、新築市場よりもむしろ中古市場のほうだ。今ある既存の住宅をどうやって維持するかが課題になる。
「中古住宅のリフォームは、組み立てしかできない技術の職人では対処できない。例えば、省エネ性能を向上させるとか耐震性能を高めるには、しっかりした知識のある職人ではないとできない。国は中古住宅流通市場の活性化を目標に掲げているが、大工不足が実は大変な足かせになるだろう」(蟹澤教授)
元旦、最大震度7を観測した能登半島地震が起きた。今はまだ被害の全容すらつかめない状況だが、復旧復興の段階に入るときは必ず来る。国や地方自治体は大災害に備えて建設業界団体と災害協定を結んでいるので、1日でも早い復旧復興をめざして工事発注を急ごうとするだろう。そのときは全国から大工や職人が集められるだろうが、大工・職人不足の深刻さがあらためて浮き彫りになるかもしれない。SNS上では「万博などやっている場合か」との声が溢れている。
(文=横山渉/ジャーナリスト、協力=蟹澤宏剛/芝浦工業大学教授)