来年4月13日から開催予定の大阪万博、今年は建設工事のピークになるが大幅に遅れており、開幕に間に合わないのではないかとの声も出ている。最大の理由の1つは、建設・建築関連の職人不足だ。ゼネコンを退職して現在は建築会社で施工管理をしている鈴木さん(仮名、大阪市)が業界の人手不足をこう話す。
「人手不足でも大手はなんとか、かき集めてくるが、業者や職人の新規開拓を会社の方針として進めている会社も少なくない。今の会社では職人に直接依頼することが多く、彼らになんとか調整してもらって仕事をお願いしている。本来なら日中の作業でも、別の現場に行っているときは、それが終わってから夜間に来てもらうとか。マンションの場合、工事が遅れると予定通りに入居できなくなるので補償問題が出てくる。うちは万博関連の仕事はしてないが、今後忙しくなってくると職人が取られたりすることもあるかも。ただ、万博関連はあまりやりたくない職人も多いのでは」
建築関連の職人のなかでも、とくに大工の減少は深刻だ。1980年の90万人超をピークに減り続け、現在は30万人を割った。ピーク時の3分の1だ。このままいけば、2035年には現在の3分の1になり、ピークだった1980年のわずか1割ということになる。9割減という凄まじさだ。
少子高齢化はあらゆる職種を直撃しているが、大工は昔から中卒・高卒で就く人が多いだけに10代の減り方が際立っている。直近の国勢調査(2020年)によると、10代の大工は2030人しかいない。しかし、20年前の2000年には1万人以上、40年前の1980年には3万人以上いた。なぜ、こんなに減ってしまったのか。少子化だけが原因ではない。建設業界の労働問題に詳しい芝浦工業大学建築学部の蟹澤宏剛教授はこう話す。
「まず賃金。大工は信じられないくらい安い。例えば、1日の日当は、首都圏でもせいぜい2万円かそこら。20日働いて40万円。ボーナスはなく、年収で500万円程度。これが地方では1日1万5000円とかに下がり、年収で350万円程度になる。しかも、それはペーペーの若者ではなく、30年も経験しているようなベテランの話だ」
大工の減少は統計的にこれほど明らかなのに、業界内部から危機感の声があまり出てこないという。
「住宅建築の大工はほとんどが一人親方で、一人ひとりが仕事を請け負っているような形だ。大手ゼネコンの社長などはよく、『このままだとビルが建てられなくなる』と発言しているが、大工たちは自分の代で廃業なので先のことは関係がないと思っているのではないか」(蟹澤教授)
ビル建築の場合、ゼネコンの下請けで働いている鉄筋職人などは社員化が進んでいる。とくに大手の現場ではそうした雇用条件が明確になっているような人でないと現場に入れない。しかし、住宅建築の現場は社員化が遅れており、法的な雇用制度の枠に入ってないことが多く、そのことが低い賃金水準が続いている要因にもなっているようだ。そして、「一人親方」の大工は弟子を取らずに個人で住宅メーカーの仕事を請け負っている状態で、昔ながらのイメージの徒弟制も崩れている。
大工の低賃金の陰にテクノロジーの発達もある。
「かつては大工が墨付けをして刻みをしていたが、ここ10年くらいでプレカットが大きく進み、今の住宅は現場で組み立てる作業がメインになった。内装も昔は現場で大工が作っていたが、今はもう骨組みが工場で全部刻まれてきて、半日で建ってしまう。延々と大工がノコギリや鉋(かんな)、のみを使うような手仕事はなく、ひたすら機械で打ちつける。要するに付加価値の低い仕事ばかりが現場に残るようになった」(蟹澤教授)