ダイハツを不正に走らせた親会社トヨタの強烈プレッシャー…現場の意見を無視

「前社長の三井正則氏はプロパーだったが、ダイハツの歴代社長の多くがトヨタからの片道切符の出向者。しかもトヨタ社内で評価が低かった人が少なくない。このため、ダイハツのプロパー社員を下に見て、現場にプレッシャーをかけ続けていたといわれている。今回の不正に関する第三者委員会の調査で、なぜ不正をする前にスケジュールの遅れを上長に言わなかったかを聞かれた社員が『言っても無駄だから』と答えているが、トヨタ出身の社長ら経営陣が現場の意見などに聞く耳を持たないという感覚が社員に染みついていた。

 ダイハツが主力とする軽自動車はスズキが30年以上、市場トップシェアだった。これを打開するため、ダイハツはトヨタによる全面的なバックアップを受けて新型車を相次いで投入するとともに、テレビCMを積極展開。『自社登録』と呼ばれる見せかけの販売台数を積み上げたこともあって、06年度にダイハツがシェアトップを奪取し、その後もトップを堅持してきた。しかし、不正件数が急増し始めた14年は、スズキが『ハスラー』のヒットでシェアトップを奪還した年。トヨタの指示もあって軽市場シェアトップに返り咲くため、新型車を短い開発期間でどんどん投入することを迫られたことから、決められた試験を実施しないといった不正に走ったことは想像がつく。

 さらに、16年にダイハツがトヨタの完全子会社となって、トヨタグループの新興国向け小型車の開発を担当することになると、ダイハツの開発部門の負担は一気に増えた。それまでも『短期開発』の名のもと、開発スケジュールの遅れは一切認められないことから不正に手を染めてきたのに、さらにトヨタの新興国向け小型の戦略車開発まで担当させられることになり、負担が増した。

 それだけではない。ダイハツはトヨタから間接部門の人員削減を迫られたことから、法規認証室の人員を大幅に削減してきた。人手不足と開発モデルの増加、さらに開発スケジュールの遅れが一切許されない状況のなかで、現場の従業員は不正に走るしかない状況に追い込まれたわけで、親会社トヨタの責任は重い」

 気になるのは今回の不正に対するトヨタのスタンスだ。

「トヨタの豊田章男会長は今年4月にダイハツの不正が発覚した際、オンライン記者会見で『トヨタの問題として考え、取り組んでいく』と述べた。しかし、不正の全貌が明らかになった12月20日の記者会見には中嶋副社長が出席し、豊田会長はレースに参加するために出張していたタイから戻ってこなかった。しかも、22日には親会社の代表取締役会長でありながら、レース会場での記者会見だったことからレーシングスーツを着用した姿でダイハツの不正に関して『日本の自動車会社を代表してご心配をおかけして申し訳ない』と謝罪した。

 また、豊田会長はこの会見で、『(ダイハツが)前を向いて自立できるように支援していく』と述べた。トヨタとしてはダイハツが自立するとは考えていないが、立ち直ってもらわなければ困るという事情を抱えている。というのもトヨタは事業をグローバル展開しており、電動化技術に関しても『マルチパスウェイ』を掲げて、電気自動車だけでなくハイブリッド車、水素エンジン車、燃料電池車など幅広く手がけていることもあって、トヨタグループのリソースは不足している。しかもトヨタ自体は低コストが絶対の新興国向け小型車の開発は苦手。このため、この分野に関してはダイハツに全面的に任せたいのが本音で、ダイハツには早く再建してほしいのだ。

 今回の不正に関して、本来なら再発防止策としてダイハツの取締役会に社外取締役が入るなどトヨタグループ以外の目が必要だが、トヨタとしてそれでは完全子会社にした意味がない。同じく不正が発覚した子会社の日野自動車について、トヨタは商用車におけるCASE技術の普及を目指すコマーシャル・ジャパン・パートナーシップ・テクノロジーズ(CJPT)から一時的に除名にしたが(すでに復帰)、ダイハツは除名にしないことにしている。これもダイハツがトヨタグループの事業戦略上、重要な子会社であるからだ。トヨタは当面、再発防止策を進めると見られるダイハツと微妙な距離をとりながら、事態が鎮静化するのを待つ戦略ではないか」(同)