「注文を受けるのも、全メニューの仕込み・調理も、代金を受け取り釣りを返すのも、食器の後片付けと食器洗いも、客席と便所の掃除も、その他もろもろの雑用も、何もかも全部1人で行わなければならない。精算に客が並んでほかの処理が後回しになると、客から罵声が飛んでくる」(14年6月29日付当サイト記事より)
その後、22年にはワンオペ勤務中の女性が店内で死亡するという事件が起き、すき家でワンオペ勤務が続けられていた実態が明らかとなった。
「今では若い女性店員の姿も目立つようになり、かなり改善されていると思われるが、過去に同社の劣悪な労働環境が社会問題になった当時の記憶を持つ人は少なくなく、競合チェーンと比較して高めの時給を提示しないと人が集まりにくいという事情もあるのでは」(外食業界関係者)
では、外食・飲食業界全体の人手不足、時給上昇の現状はどうなっているのだろうか。自身でも飲食店経営を手掛ける飲食プロデューサーで東京未来倶楽部(株)代表の江間正和氏に解説してもらった。
東京都の場合、最低賃金が10月1日より1072円から1113円になりました。これに伴い、現在の外食業界・飲食店のアルバイト時給は1200円前後が目安になっています。19年に最低時給が1013円になり「1000円の壁」を突破する前は「時給1000円」がひとつの目安でしたので、ここ4年で約20%上昇したことになります。
これがどのくらい飲食店へのダメージになるのか。価格を構成するコスト・利益配分を材料費30%、人件費30%、家賃10%、光熱消耗雑費10%、償却・借入返済10%、利益10%と仮定すると、人件費が20%アップして36%となる分、利益は10%から4%へダウンすることになります。実際には家賃や光熱消耗雑費が10%以下に収まっていないケースも多く、材料費も上昇していますので、利益はさらに圧迫されることになります。
そうはいっても飲食店で『人がいない』のは致命傷となります。予約や席数を制限して対応しても売上が落ちます。長期的に考えれば料理の提供が遅くなったり、サービスが低下することでお客さんのストレスが増せば、売上が落ちます。そしてもっとも怖いのは、人が足りずに現場スタッフへの負担が大きくなり、倒れたり辞めたりして、さらに人がいなくなるという悪循環です。シェフが料理してそれをテーブルに運んでお会計までするというのは不可能です。実際に人材確保難による閉店が数多く起きています。
このような悪循環に陥らないように、なんとか人を採用できるようにお店は工夫しています。最低時給が1113円の場合、平均的な募集時給は1200円となりますが、平均的な時給では目立ちません。なので1300円、経営的にまだ出せるところは差別化をはかり1500円を提示します。実績のある人は最低時給のお店を選ばず、時給の高いところからアプローチします。時給1300円と1500円では応募の反応の違いがかなり出ています。時給を上げる一方でシフトの組み方を工夫して一人当たりの労働時間を短くし、トータルの出費を今までと同じレベルにしているお店もあります。
また、お客さんのスマホを使ったセルフオーダーシステムや配膳ロボットの導入など、作業の効率化により現場の必要人数自体を減らすような努力も見られます。街場の小さなお店では、ランチタイムにセルフドリンクサービスのコーナーができたり、手数を減らすためにワンプレートに変えたり、現金を扱わないで済むQRコード決済を導入したり、ハードルの低いことから取り組む店もあります。
人件費の上昇という世の中の流れは変えられないので、これからは人件費の原資になる売上づくりが重要となり、いかに売上を増やしていくか、人材を有効活用していくかをスタッフたちと検討しながらお店の舵取りに注力していく必要があります。売上が増えてスタッフの賃金が上がるという良いスパイラルを実現したいものです。
(文=Business Journal編集部、協力=江間正和/東京未来倶楽部(株)代表)