トヨタ自動車の豊田章男会長が「財界総理」と呼ばれる経団連会長就任に向けた動きを本格化させている。任期途中ながら2024年1月1日付けで日本自動車工業会(自工会)の会長職を、いすゞ自動車の片山正則会長に譲ることを決定。一方で、経団連モビリティ委員会の会長職は豊田氏が継続する。経団連会長職は副会長からの昇格が慣例となっているが、豊田氏はこれを破っていきなり経団連会長職の座を狙っているとの見方が強い。豊田氏の業界団体を私物化するような動きには批判する声も少なくない。
自動車メーカーの業界団体である自工会の2度目の会長に豊田氏が就いたのは2018年5月。当時、自工会の会長職はトヨタ、ホンダ、日産自動車の代表権を持つ役員が2年ごとの輪番制で務めることになっていた。この取り決めを崩したのが豊田氏だ。本来なら20年5月に自工会の会長は当時ホンダ会長だった神子柴寿昭氏が就くはずだった。これを阻止したのは、20年夏に予定されていた東京オリンピック・パラリンピックで日本の自動車産業、とくにトヨタの技術力を世界に向けて発信しようと豊田氏が考えたためだといわれている。
自工会は東京オリ・パラ開催期間中、日本の自動車メーカーが開発した自動運転などの先進技術を世界に向けて発信するため、都内周辺でさまざまなイベントを展開することを計画していた。このイベントを豊田氏が主導するかたちにしたかったトヨタは「東京オリ・パラのイベントを仕切れるのは豊田会長しかいないと、ホンダが会長留任を要望している」として根回し、豊田氏は会長職に留任した。ホンダは次期自工会会長就任を見据えてわざわざ神子柴氏を代表権を持つ会長にしていた。ただ、ホンダの役員は歴代、自工会の会長職にこだわりを持っていないことから、トヨタの思惑にのった。
その後、新型コロナウイルスの感染拡大で、東京オリ・パラは1年延期となり、21年に開催となった。コロナ禍での開催となったことから結局、自工会も当初計画していたイベントのほとんどを中止した。こうしたなか、トヨタが海外から来日した選手らに自動運転技術をアピールするため東京都中央区の選手村を運行していた自動運転バスが、選手との接触事故を起こした。自動運転車のオペレーターを務めていたトヨタの社員が書類送検された。世界に向けて日本の自動車メーカーの技術力の高さをアピールするどころか、自動運転技術の遅れをさらすことになった。
豊田氏の自工会会長としての任期は22年5月までで、20年に留任した際「トヨタ、ホンダ、日産の輪番制がなくなったわけではない。次はホンダが務める」(神子柴氏)としていた。任期終了の半年前となる21年11月、自工会は22年5月以降の役員体制を発表し、豊田会長が異例となる3期目を続投するとともに、副会長に乗用車に加え、二輪車、商用車、軽自動車メーカーの社長が就くことにして大幅増員した。それまで自工会の副会長はトヨタ、日産、ホンダのほか、マツダ、三菱自動車の代表者で構成していた。続投の理由は「大変革の時代に、同じリーダーの下でやってほしいとの声があったから」と説明されたが、関係者はいう。
「自工会改革にかこつけているが、本音では23年に開催されるジャパンモビリティショー(旧東京モーターショー)を自分の手でやりたかったから続投した」
ただ、この後、自らが決めたことが障害となる。副会長を増やした際、自工会の会長、副会長は会員自動車メーカーの「執行部門をつかさどる社長であること」を決めた。それまでホンダや日産は自工会の役員には各社の会長などを充てていた。