トヨタ豊田会長、業界団体の私物化に批判続出…経団連会長就任を狙い露骨

「豊田氏が日産やホンダの社長の上に立つ感覚を得るためだけに、自工会の役員は各社の社長に限定した」(関係者)

後任にいすゞ会長を選んだ理由

 ところが今年1月、トヨタは4月1日付けで豊田氏が会長となって佐藤恒治執行役員が社長に昇格する人事を発表した。これを受けて自工会は豊田氏が自工会の会長職を退任すると発表。自工会の副会長以上は各社の「社長」に規定しているためで、このままでは豊田氏はジャパンモビリティショーに関われなくなる。ただ、退任を公表した時点では後任について触れておらず、周囲からは「出来レース、ポーズだけ」と見られていた。案の定、2カ月後の3月、自工会の副会長全員が会長続投を要請したのを豊田氏が受け入れ、24年5月まで続投すると発表した。ジャパンモビリティショーは無事開催され、取引先などの関係者などに無料チケットを配りまくった効果もあって、来場者数は目標としていた100万人を大幅に超えた。これに満足したのか、11月の自工会理事会で豊田氏は23年末で自工会の会長を退任することを発表した。

 後任に選んだのは、今年3月に豊田氏の会長職続投を発表した記者会見で豊田氏のことを「余人をもって代えがたし」と述べた片山氏だ。商用車メーカーのトップが自工会の会長職を務めるのは初めてで、世界の自動車の主要な業界団体でも例がないと見られる。片山氏を次期会長とする理由について豊田会長は「喫緊の課題である物流・商用領域に全員で取り組むことが未来への一歩になるとの認識で、大型車で豊富な経験を持つ片山さんに次期会長をお願いした」と説明した。

 しかし「いすゞはトヨタと資本提携しているだけに、片山氏をコントロールしやすいと豊田氏は考えたから」(関係者)と見る向きは強い。豊田氏としては日産やホンダの役員が自工会の会長では「業界団体を思い通りにコントロールできなくなる」懸念があるからだ。自工会の新体制に関する記者会見で、この点を追及した記者の質問に対して豊田氏は「質問の内容がよく分かりませんけど、資本の論理で議論していない」と癇(かん)に障った様子をみせた。

 確かに24年4月にドライバーの残業規制が強化され輸送需要に対応できなくなる「物流の2024年問題」が大きな社会的課題となっているものの、自動車メーカーが課題解決に貢献できることは限られている。グローバルで事業を展開している自動車メーカーにとっては「カーボンニュートラルや電動化などの問題のほうがよほど大きいはず」(自動車メーカー首脳)だ。記者会見で豊田会長は「2025年問題」と口にするなど、知識不足を露呈。そもそもいすゞの片山氏は今年6月に会長に就任した。自工会の副会長以上は「執行をつかさどる社長」という規定は崩されている。

経団連会長就任を見据えた動き

 自工会会長の交代時期についても違和感がある。役員の任期は24年5月までだが、今回、任期途中の1月に交代するのは、豊田氏の経団連会長就任を見据えたものとの声がある。経団連の十倉雅和会長(住友化学会長)の任期は24年5月まで。経団連の次期会長は副会長から選ばれる。このため、今年4月に豊田氏がトヨタの社長を退任して会長になった際、経団連の副会長に就き、24年6月に次期会長に就くとの観測が広がったが、豊田氏は経団連の副会長には就かなかった。

 しかし、豊田氏が12月末に自工会会長を退任するのは、副会長を経ずに異例のかたちで24年5月に経団連会長に就くための準備と見る向きが強い。モビリティ産業の競争力強化を図るため、豊田氏が主導し22年10月に設立した経団連モビリティ委員会は、十倉会長に加え、自工会会長の豊田氏、日本自動車部品工業会の有馬浩二会長(デンソー会長)の3人が共同の委員長だ。豊田氏は自工会会長として委員長を務めているはずだが、来年1月に自工会会長が片山氏に交代した後も豊田氏が委員長を継続する。「副会長からの昇格ではなく、経団連モビリティ委員会の委員長を理由に経団連会長に就くのでは」と分析する業界関係者もいる。

 豊田氏が経団連副会長に就かないのは「電動車の電磁鋼板の特許に関してトヨタを提訴した日本製鉄の橋本英二氏が副会長にいて同列になりたくないため」(業界紙記者)との声もある。特許紛争も11月に日本製鉄が訴えを放棄して終了するなど、豊田氏の経団連会長に就く環境は整いつつあるようにも見える。ただ、トヨタと豊田氏が会員の親睦や互助が基本の業界団体を私物化して、思惑通りに利用する姿勢を批判する声があるのも事実だ。

(文=桜井遼/ジャーナリスト)