日本でGAFAMが生まれない理由をWinny事件と関連づけるのは正しいのか

 世界的IT企業が登場しなかったのは、当時の社会的な構造としてボトムアップでのアイディアが採用されにくい問題があったことのほうが影響としては大きい。Winnyが世に出た頃を振り返れば、大企業が支配している既存のビジネスが極めて大きく支配的な一方で、IT技術をはじめとする新しい要素技術やサービスの研究開発も、大企業のビジネスモデルを拡張・発展させる方向に向いていました。社会全体が、それまでに存在していなかった発想を受け入れにくい構造だったことは否めません。“非中央集権的”な考え方や“分散型ファイル共有”といったアイディアそのものは有益ですが、金子氏が開発したWinnyはそうした先進的なアイディアを売り込んでいた訳ではありません。優れたアイディアも、提案のやり方次第で社会からの受け入れられ方が異なるのは当然ですから、いずれにしろ投資対象にはなりえなかったでしょう。

 一方で、アメリカはかつての産業・社会の構造的問題を乗り越え、1990年代半ばから大企業が取り組むにはまだ小さい産業だったパソコン向けソフトを出発点にベンチャーが勃興し、IT技術で発展することで国力全体が高まり、ベンチャー投資や育成へのノウハウや社会的な受け入れ体制も整って行きました。その結果、GAFAMのような世界的企業が誕生しましたが、国ごとに異なる歴史をWinnyと結びつけるのは論理の飛躍が過ぎると思います」(本田氏)

日本に世界的IT企業が誕生するのは難しいのか

 産業構造が変化したことによってアメリカが世界のITを先導する現在、日本に世界的IT企業が誕生することは難しいのだろうか。

「クラウドやスマートフォンなどのイノベーションは、すでに“引き起こされたもの”です。それを生み出した企業の土俵に立っています。土俵の上で勝負はできても、それはすでに作られた他国企業のプラットフォーム上での話です。そこで勝負したところで世の中は変わりません。

 一方で、日本が世界に先駆けて直面している少子高齢化が、世界的企業を生み出すきっかけになる可能性はあると思います。日本の少子高齢化の状況を考えた時に、労働人口が減少していくなか、今の社会を維持・発展させるには創意工夫が必要です。今後、日本以上に少子高齢化が進むと言われる大国が多数ある中、人口が減少する中でどのように社会を維持し、経済活動を拡大していくのか。テクノロジーだけではなく、創意工夫によって克服することができれば、そのソリューションを海外に輸出していくことはできるかもしれません」(同)

(文=LUIS FIELD、協力=本田雅一/ITジャーナリスト)