成長促進も同じである。部下自身に成長したい意欲があり、それに伴うテーマ、分野があれば、それに合った上司を選ぶことで成長促進につなげられるだろう。
生産性アップは典型的な例だ。現場で支援をしていると「たられば」を口にする社員によく遭遇する。
過去、「情報システムに入力する時間を減らしてくれれば、お客様との接点が増える」と言い張る営業に、入力作業を任せられるアシスタントをつけたことがある。しかし結果は同じ。また別の理由を持ち出して「時間がないからお客様との接点を増やせない」と言い訳をする。
反対の例もある。ある会社で「DXを推進してくれたら、もっと残業を減らせる」と問題提起した総務のメンバーたちがいた。そこで社長は大枚をはたいてDXを進めたが、いっこうに残業が減らず、それどころか生産性は落ちた。
これらは問題の箇所を正しく特定しなければ、生産性はアップできない、という典型例だ。
同様に、「上司を変えたら生産性が上がる」と考えるのは安易すぎる。生産性が上がらない原因が上司以外の要因なのに、それを特定せずに上司を変えてしまったら、単に部下のストレスが減るだけという結果になる。
上司選択制度については、「上司」と「部下」の定義をはっきりさせてから導入すべきだろう。そうでなければ「上司選択制度」に慣れた部下が、他社へ転職した際、組織にうまく馴染めなくなる可能性がある。
「上司」と「部下」の定義の前に、まずは「リーダー」「マネジャー」「メンバー」の違いについて考えてみよう。ちなみに私はリーダーとマネジャーを次のように定義し、明確に線引きしている。
リーダーとは、「高い目標に向かってチャレンジしよう」「失敗してもいい、だけど最初から諦めずに挑戦しよう」など、部下のハートに火をつける役割を持っている人だ。
リード(誘導)する人だからリーダーと呼ばれる。だからリーダーにとって重要なのは、メンバーとの信頼関係である。信頼関係は情緒的なものだ。理屈ではない。これまで組織に貢献してきた実績も必要だろうし、人柄や共感力なども求められる。
いっぽうマネジャーの仕事は、目標を達成させるためにリソースを効果効率的に配分することだ。適切に調整することをマネジメントと呼ぶし、芸能タレントのマネジャーをイメージすればわかりやすい。
マネジャーは芸能タレントのような才能はなくていいし、実績も問われない。求められる役割は「リソース配分」「調整能力」である。だから適切に調整するための論理思考力が必要だ。ダンドリできる力が乏しい人はマネジャーに向かない。
実際の現場では、「リーダーとマネジャー」「上司と部下」との関係が、しばし混在する。たとえば次の例を見てもらいたい。
【コスト削減プロジェクトチーム】
・Aさん(経営企画部 課長):リーダー
・Bさん(専務取締役):副リーダー
・Cさん(製造部 部長):メンバー
・Dさん(営業部 課長):メンバー
・Eさん(総務部 副部長):メンバー兼マネジャー
・Fさん(総務部 課長):メンバー
このプロジェクトチームのリーダーはAさんだ。しかし役職は課長であり、メンバーたちの直属の上司ではない。Bさんは専務だから、部長であるCさんの直属の上司。EさんとFさんは同じメンバーでも、総務部では上司と部下の関係だ。
このように上司だからといってリーダー、マネジャーをやる必要はなく、チームの形態によって役割は変わってくる。
では、上司は部下の教育係なのかというと、そうとも限らない。「上司のほうが優れている」という時代は終わった。