たとえば大学時代に起業経験があるXさんは、AIエンジニアとして一流だ。SNSで情報発信を繰り返し、5万人のフォロワーがいる。マーケット感覚にも長けているXさんが、ある会社に入社。上司となったYさんは、「何一つ勝てるところがなかった」と言った。
しかし組織の論理からすると、たとえYさんよりXさんにリーダーシップがあり、マネジメントスキルもあり、実務能力が上であったとしても、上司と部下との関係は成立する。
また「上司=評価する人」「部下=評価される人」であり、どんなに優れた部下であっても、部下を評価するのは上司に違いない。大事なことは、上司には部下の成果に責任を持たなければならない、ということだ。責任があるからこそ、部下を評価できるのである。
そして何よりも忘れてはならないのは、「責任がある分、権限もある」と考える「責任と権限の一致の原則」である。この原則を前にすれば、「上司選択制度」には違和感を覚えてしまう。
部下に上司を選ぶ「権限」を与えるのであれば、その分部下にはその「責任」をとってもらわなければならないはずだ。
部下が上司を選んだ以上、その上司のもとでやる気を見せる「責任」があるし、期待通りに成長する「責任」があるし、生産性をアップする「責任」がある。
繰り返すが「上司選択制度」を否定はしない。
しかし組織というのは、変わりゆく社会の中、何らかの事情で力を発揮できない人や部署を助け合える仕組みを構築している。毎年一定の利益を出すには、リソースマネジメントが必要であり、その意思決定を会社が下すのは当然だ。
社員ひとりひとりの都合で上司を選択してしまうとリソースマネジメントがうまくできず、生産性が落ちることは間違いない。まず余裕のある経営をしていない会社は真似できないだろう。
社員ファーストを考える前に、上司とは何か、部下とは何かを改めて考えてもらいたい。