こうした地道な改善にはどのようなものがあるか。例えば、坂口も紹介しているが、majicaアプリの中にある「マジボイス」というサービス。これは、発売済みのPB商品に対して、アプリを通じて顧客から「ダメ出し」を募集するもの。これによって、商品を少しずつ改善させていき、店舗に再投入する。
やっていることは典型的なPDCAサイクルを回しているに過ぎない。しかし、その着実な積み重ねがなされている。この仕組みのおかげもあって、今やドンキのPBは売上高2461億円を稼ぎ出すまでになっている。
「改善」の仕組みは、もっと大きな店舗単位でも同様だ。特にドンキの場合、閉店した他店舗の什器などをそのまま活かして新規開店を行う「居抜き」に積極的で、スーパーマーケットやパチンコ店、果ては屋内型テーマパーク施設など、さまざまな施設を居抜きしてきた。
居抜き出店のメリットは、低コストで出店が可能、かつ、出店スピードを早められることにある。短期間でPDCAを回すドンキにとって居抜き出店は都合がいいのだ。
また、逆に撤退が早いこともドンキの特徴だ。例えば、かつて存在した神保町店などは、わずか数カ月で撤退した。その地域の需要になかなか応えられないことがわかったからだろう。このように、「マジボイス」に限らず、顧客からの反応を見て、素早くそれを基に改善を加えていくのが、ドンキの一面なのだ。なにも、思いつきで派手なプロモーションをやっているだけでない。
あるいは、細かい取り組みになると無数にある。
例えば、2024年の4月、ドンキではレジ打ち業務の一部に椅子が導入された。特にインバウンドが活況な店舗では免税レジの列が途切れることがなく、従業員が立ちっぱなしになってしまうため、従業員の負担が多くなっていたのだ。そこでレジに椅子が導入され、職場環境の改善に役立っているという。
これも大きな意味では、インバウンド店舗の改善につながっているだろうし、PPIH全体の「細やかな改革」がよく現れている一例だろう。
こうして、一見すると派手で猥雑なイメージを持つドンキだが、その裏では堅実な改革を進め、35期連続増収を果たしてきた。その企業としてのあり方は、まさにブルーノ・マーズのCMに現れている。
一見すると、「ネタか?」と思われる一方、そこにはインバウンドに向けた着実な戦略がある。その二面性がおもしろい。それは、いわば「まじめにふざける」ことを地でいっているのかもしれない。
そういえば、PPIHといえば、現会長・安田隆夫氏の息子・安田裕作氏が取締役に就任することも話題。というのも、裕作氏、22歳なのである。東証プライム上場の企業が20代を取締役にするのはきわめて珍しい。
将来的に経営者になるには、まだ何年もかかるだろうが、この発表には、「結局、同族経営なのか」や「先行きが不安」という声も出ている。また、ブルーノ・マーズのCM同様、ある種の注目集めだと思われている節もある。
しかし、もちろん狙いはある。PPIHの取締役会は、20代を中心とする若い世代の感性を取り込むための方策だと説明し、今後のドンキ利用者層を見据えた上での策であることが明らかにされている。この決定も、ある意味で「まじめにふざける」ドンキの一つの現れなのかもしれない。
小売業の様々な固定観念を壊してきたPPIH。CM戦略や人事戦略を含め、これらの「まじめにふざける」戦略がどうなっていくのか、注目だ。