ブルーノのCMにも登場した渋谷のドンキに行ってみると、店内の多くに外国人観光客がいる。商品がぎっしり詰め込まれ、訳のわからないモノから日用品までさまざまに置いてある(中にはアダルトグッズも)ドンキに、日本らしさを感じ、一つの観光名物になっているのだ。
こうした現状に対して、ドンキ側も対応策を考えている。特に今回の決算資料では、インバウンドに対する方向性が明示されている。
PPIHはインバウンド対策として「ドンキでしか得られない買い物体験」を外国人観光客に体験させることを目指し、ドンキを「日本で立ち寄るべき場所No.1」にしていくと明言する。
この目標を達成するため、「旅マエ戦略」「旅ナカ戦略」「旅アト戦略」を拡充するのが今後の方向だ。
「旅マエ戦略」では、マーケティング戦略を強化して、日本に来る前からドンキへの来店動機を高める。SNSを用いたプロモーションや、航空会社との連携などを拡充していく。
また、「旅ナカ戦略」では、ドンキ特有の「圧縮陳列とPOPの洪水、店舗ごとに違う演出やレイアウトなど、他小売店にはない珍しさに時間消費してしまう店内観光体験」の深化が強調されている。
そして「旅アト戦略」としては、観光客が帰国後に現地の家族や知人などにドンキをすすめることで、ドンキの認知度を高めることが目指されている。こうしたインバウンドの感想を拾い上げるため、日本国内向けにリリースされている「majicaアプリ」の訪日観光客向けバージョン「マジカグローバル」もリリースされる予定だという。マジカグローバルでは、訪日観光客からの口コミなどを集め、それを基に店舗を改善し、訪日観光客が何度でも訪れたくなる店を作っていく。
こうした来訪客への調査は、すでに行われていて、決算資料では「免税実績No.1商品」として「ベイク クリーミーチーズ」が挙げられている。「抹茶」でも「桜」でもないのだ。なんでも「暑い国でも溶けにくい」ことから、タイや台湾、韓国で大人気なのだという。これは、実際に顧客に聞いてみないことにはわからないことだろう。ドンキが本気でインバウンドの人々の好みを調査し、それに対応しようとしているのがわかる。
ドンキはインバウンドによる営業利益の目標として、今期は1750億円を掲げている。前期をさらに上回る目標を立てているのだ。
つまり、ドンキはインバウンド需要をさらに拡大させ、世界的な観光地としてドンキを成長させようとしている。そのとき、世界的ミュージシャンであるブルーノ・マーズをCMに起用すれば、世界に向けたアピールはばっちり。このキャスティングは、現在のドンキの方向性にぴったりなのだ。
もちろん、こうした起用の裏側には、ブルーノが、ドンキの熱烈なファンだったという偶然もあっただろう。しかし、こうしてみると、ドンキの「ちょっとした思いつき」に見える戦略の数々は、実はかなり理知的かつ合理的である。
そもそも、ドンキは店の雰囲気とは異なり、かなり堅実かつ地道な改善を重ねてきた企業でもある。ドンキについての著作もある坂口孝則は、PPIHの広報に話を聞くと「『普通のことを普通にしただけです』といった当たり前の話しか聞こえてこない。ドン・キホーテのイメージは、むしろ過激で危うい感じがある。ただ、実際には常識的で、そして“つまらない”のだ」と書いている。筆者もドンキに関する著作を持っており、相応の取材をしてきたが、まさに同じ感覚である。