例えば、いっときバズりまくった「10分モンブラン」はその名前だけで「なんだろう」と思わせ、「10 分後には食感が変化するのでテイクアウト禁止」などと奥へ引き込み「食べてみたい」という感情を揺さぶった。
同じ手法をパクる店も出てきたが、ただ真似ただけのアイデアでは驚きがないから「間」が生まれない。やはり新しいアイデアで違和感と奥行きを生むしかないわけだ。
僕たちの日常は目まぐるしく流れていく。その流れに棹さして考える一瞬を生むには、あたりまえのことでは無理。それ相応の「違和感」が必須だ。ただ違和感を追い求めすぎると、週刊誌のゴシップように人の興味をそそるだけの「悪い違和感」も生まれるので、できるだけ幸せを想像して違和感を生み出すのがよいだろう。
まずはあなたの仕事で、どうすれば世の中の人が「えっナニ!? 」と驚くかを考えるだけでもいい。上司からは「真面目に考えろ!」と言われるかもしれないが、それにへこたれず続けていれば、だんだん仕事の領域とマッチする違和感が発見できるようになり、「へえ面白い!」という奥行きを生み出せるようになるだろう。
「間」こそ、心を動かす最初の一撃。
いい違和感と奥行きが良い間を生む。
私たちは日々、何万ものストーリーに突き動かされている
街を歩いていると不思議な違和感のある扉を見つける。どうしても開けてみたくなり、扉を開くとそこにはダンジョンがあり、その先に光る何かが垣間見える。衝動に駆られ、歩みを進め、その光に触れたくなる……。それはファンタジー映画の一場面のようだが、実は流行しているブランド体験そのもの。そしてこれがブランドのつくり方のルールでもある。
先ほどの「違和感と奥行き」というのはまさにこれ。日々忙しい人に立ち止まる「間」を生むためには相当の違和感が必要だし、その人を奥へ奥へと引き込むためには、キラッと光って人を魅了する「何か」をずっと奥まで並べておく必要がある。そして僕はこの「何か」の正体こそが「ストーリー」だと思っている。
ストーリーの定義はさまざまにあるが、僕はビジネスにおいてのストーリーを「欲しくなり、話したくなるモノがたり」と定義している。大切なのは「モノ」ではなく「モノがたり」であること。
モノの周りにある語れる話こそがストーリーになるわけだ。もちろん「欲しい」は「行きたい」とか「参加したい」とかいう言葉にもなるし、モノがたりがコトがたりであることもあるのでそれは各自が仕事に合わせて変換してほしい。
ここで、まずはひとつ頭の体操をしてみよう。以下の3つの中で最も欲しくなるヘッドフォンはどれか?
おそらく1を挙げる人は少ないだろう。先端技術も高品質も「違和感」がなく、誰かに話したくならない。それに対し、2と3はどうだろう? アップルがどうしても傘下にしたいと願ったブランドなら凄そうだし、ドクター・ドレーは知らなくても多くの有名人が愛用しているなら、これまた欲しくなるかもしれない。
実はこの3つはどれも「Beats by Dr.Dre 」の正しい情報だが、伝えるストーリーによってブランドの捉え方が変わるし、購買意欲も変わる。
その他にも、99セントで購入した置物に「その置物の作家の父にまつわるフィクション」をつけて売ったら62ドルになったという話もある。言葉だけで価値が60倍にもなる。それがストーリーの力だ。もちろん?はいけないが、ストーリーは「欲しい」という思いを加速させ、広げる力を持っている。