すでに700万を超えた回線数は年内の達成が十分視野に入るものの、課題はARPUだ。足元のARPUは2030円程度と、1年前と比べてほぼ同水準にとどまる。利用料が比較的少ないとされる法人向けが増えたことが一因とみられる。驚異的なペースで回線数が伸びているとはいえど、ARPUの急上昇が厳しい状況なのは間違いない。
楽天自身も、目標達成の難しさを認識しているもようだ。今回の決算プレゼン資料からは、目標として掲げてきた「年内モバイル単月黒字化」への言及が消えた。
代わりに強調されたのが、楽天の「エコシステム」の利用も含めたARPUの指標だ。楽天モバイルを使うことで、グループのサービス利用に貢献した点などを加味した数字で見ると、ARPUが3000円を超えるとしている。
純粋なARPUベースで当初の目標達成にこだわるならば、実質的に値上げするような形で料金設定を見直すのが現実的な戦略に映る。ただ、7月にはソフトバンクが「楽天対抗」(宮川社長)として、オンライン専用ブランド「LINEMO」で、利用量に応じて2段階で料金が変わる新料金プランを投入するなど、業界内の競争はより激しさを増す。
三木谷氏は「単純な値上げというよりかは、より付加価値をつけたサービスを追加してARPUを上げていくのがまずやるべきことだ」と強調する一方で、「十分なマーケットシェアを獲得したうえで料金は考えていきたいが、事態は刻々と動いている。この辺はセンシティブな戦略なのですべて話すわけにはいかない」と、今後の戦略見直しには含みを持たせた。
足元では、さらなる攻勢を強めようと、6月からある「武器」を投入した。2023年10月に獲得した、つながりやすい周波数帯である「プラチナバンド」だ。「積極的にプラチナバンドの敷設をし、『最もつながる最強楽天モバイル』ということで取り組んでいく」(三木谷氏)。
楽天は競合キャリアと比べた際の通信品質面での課題が指摘されてきた。悲願としてきたプラチナバンドをようやく手にして本格展開することで、さらなるユーザー数拡大に弾みをつけたい考えだ。
ただ、販促面では派手な仕掛けに乗り出しつつある一方で、6月の開始時に整備を発表したプラチナバンド向け基地局は1局のみだった。楽天が国に提出した基地局開設計画では、2033年度末までの設備投資額も544億円にとどまる。
MM総研の横田氏は「楽天の投資額を見ると、そこまでいきなりガラッとつながりやすさが変わるとは言えないと思う。もっとつながりやすくなれば、評価も上がってくるので、楽天もレピュテーションを守るためにしっかり(投資を)やっていかないといけないのではないか」と指摘する。
競合からも苦言を呈する声が上がる。KDDIの?橋社長は「あれだけアピールされている割に、積極的に投資をされていない印象だ」と話す。ソフトバンクの宮川社長も「国から電波を割り当てられたMNOとして責務を果たすべく投資はしていただきたいが、今はさほど機能していない」と述べた。
「圧倒的な品質を実現すべく、地道な努力をやっていきたい」と強調する三木谷氏。プラチナバンドの整備加速でさらに品質を向上させ、ロイヤリティの高い顧客の拡大につなげられるのか。これから改めて、携帯キャリアとしての真価が問われることになりそうだ。