楽天モバイル、競合も驚いた「契約数爆増」の深層

他社が抱く”違和感”の正体を読み解くヒントとなりそうなのが、楽天が公表した「MNP」(電話番号を変えずに携帯キャリアを乗り換えられる制度)での純増数だ。

楽天は2024年1~6月の競合他社からの「MNP」によるB2Cの純増が、29.9万回線だったと明らかにした。この間のMNO全体の増加数は98万回線で、他社からの乗り換えは3割程度にとどまる計算となる。競合キャリアからすれば、この点が、楽天の急拡大に比して自社からの流出が少なく見える要因の1つといえそうだ。

では、残る7割の顧客はどこから楽天にやって来ているのか。

第1に挙げられるのが、法人だ。楽天は契約回線数の法人・個人別の内訳を開示していないが、「新規獲得は法人が個人を超えている」(通信業界関係者)といった見方が多い。先述のように、法人向けは独自の顧客基盤を使った販促活動により、他社が未開拓の領域へのリーチが推測できる。

一方、個人向けについては、「外部」からの新規契約が増えているとの指摘が出ている。

ある大手携帯販売代理店の関係者は「最近楽天の店舗はすごく業績が上がってきているが、日本にいる外国人の労働者や学生向け販売が多い。外国人の間では『(手続き面で)他キャリアに比べて外国人でも契約しやすい』との評判が立っているようで、口コミを通じて広がってきている」と明かす。楽天が社内公用語を英語にするなどグローバル志向が強い企業であることも、外国人から好感される理由とみられる。

新規ユーザーが定着するかは疑問も

法人から外国人まで――。他社が手をつけていない新たな市場開拓に成功しているようにも見えるが、急拡大している個人ユーザーが将来的に楽天に定着するかどうかは、見極めも必要だ。

KDDIの?橋社長は自社からの流出について、「データ利用量の少ないSIM単体のユーザーの流動が、少し楽天のほうに出ている感じがする」と述べた。

SIM単体のユーザーとは、端末の購入を伴わない回線のみの契約者を指す。こうしたユーザーの一部は、MNPで短期間に会社の移行を繰り返すことで、端末購入時の割引やポイントなどキャリアが乗り換えを促すために用意したインセンティブを得ているとされる。特典を狙った短期的な乗り換え目的で、楽天と契約した個人契約者も多い可能性があるというわけだ。事業者にとって、特定キャリアに対するロイヤリティ(忠誠心)が低いユーザーは、長期的な収益貢献が期待しづらい。

近年はキャリア間の乗り換え障壁が低くなったことで、こうした動きが顕著になっており、MM総研の横田英明副所長は「iPhoneの発売時などに向けて、他の会社にMNPをして割安価格で購入する目的で、SIMのみ契約をしている人が多い。楽天の新規契約者のうち、どのくらいが(実際に継続利用する)アクティブユーザーか注目される」と指摘する。

楽天モバイルの矢澤俊介社長は決算会見で、「MNPも含めて乗り換えしやすくなっているので、SIM単体の(契約)傾向は増えている」と認めたうえで、「端末を含めたバンドル(抱き合わせの)契約もかなりボリュームがある。SIM単体のみが増えていることはまったくない」とも強調した。

一方、業績面に目を移すと、楽天のモバイル事業は依然として赤字が続く。2024年1~6月期決算では、606億円の営業赤字(前年同期は824億円の赤字)だった。

楽天モバイルのARPUとモバイル事業の営業損失の推移

楽天はモバイル事業について、2024年内にEBITDA(利払い前・税引き前・償却前利益)ベースで単月黒字化を目指している。キャリアの通信利用収入は、主に「契約回線数×ARPU(1ユーザー当たりの平均売上高)」で決まるとされる。会社側は、損益分岐点を超えるには、「MNO回線数=800万~1000万回線」「ARPU=2500~3000円」の双方の達成が必要だと見込む。