6月20日に出た「FAST日本初上陸」のリリースが業界内で話題を呼んだ。「ABEMAもFASTだから日本初上陸とは言えない」とツッコミを入れる人もいたが、自らFASTを標榜するサービスが日本に登場するのが初めてなのは間違いない。サービス名も「FASTチャンネル」で、そのものずばりだ。運営するBBMとはどのような会社なのか?
その前に、FASTとはどのようなサービスなのか説明しよう。
FAST(Free Ad-supported Streaming TV)は、その名の通り、無料広告型のストリーミングサービスだ。アメリカでは2020年頃からその成長が注目を浴び、主要なプレイヤーとしてPluto TV(2013年開始)やTubi(2014年開始)などがある。
FASTは、Netflixのような能動的に番組を選んで見るオンデマンド型ではなく、何百ものチャンネルから好みのものを選んで"ながら見"できるサービスだ。
Netflixでは莫大な製作費をかけたドラマが楽しめるが、あまりに大量の番組があってどれを見ればいいのかわからなくなることもある。またハラハラドキドキしながら何時間も連続して見るのは疲れる。
FASTは好きなタイプの番組をスマホでも眺めながら「見るともなく見る」のに適している。オンデマンド型が能動的に前のめりで見るのに対し、FASTは次々に流れてくる番組を受動的にソファにもたれながら見る、正反対の視聴態度だ。Netflixのようなサービスと競合するというより、互いにニーズを埋めあって両立できるものだと言える。
FASTのチャンネルは一つのサービスに何百もあり、幅広いジャンルから選べる。ドラマもSF、ラブコメなど幅広くあり、スポーツではアメフト、野球など豊富だ。ニュースも地域別にチャンネルがあり、自分が住む都市の最新情報が得られる。
「スタートレック」や「ローハイド」など昔の番組だけのチャンネルもある。日本で言うと「太陽にほえろ」チャンネルや「時間ですよ」チャンネルがあるようなものだろう。ダラダラ流すにはもってこいではないだろうか。
また、FASTはCMとの相性がいい。オンデマンド型では、適切なタイミングでCMが入らないとイラッとするだろう。だがFASTはBGMのような視聴態度なので、CMが入っても違和感がない。
テレビ放送が広告モデルで成功したのも、必ずしも能動的には見ないからだと思う。その意味でFASTは配信時代に進化した、テレビの次のテレビなのだと言える。放送のように総花的に番組が流れてくるのに飽きてしまったが、オンデマンドで能動的に見たいわけでもない。そんな気分にぴったりの映像配信サービスなのだ。
アメリカのFASTの解説はこれくらいにして、「日本初のFAST」の話に入ろう。
私が抱いていた疑問は以下2点だ。メディア業界を取材してきた私だが、BBMという社名は聞いたことがなかった。そんな無名の会社がFASTを始めて大丈夫かというのが1点。もうひとつは、動画配信サービスが増えすぎて淘汰も始まるかという2024年に、FASTという新サービスをどう普及させるのかということだ。BBM代表取締役CEOの福崎伸也氏に話を聞き、いずれの疑問も氷解した。
まずBBMは2014年に設立されたベンチャー企業だが、元々アクセンチュアの一つのチームがスピンアウトして設立した会社だ。福崎社長によると「ビデオオンデマンドの立ち上げ支援を裏でやっているコンサルチーム」だった。つまり、動画配信のプロフェッショナル集団。知ってる人はよく知っており、さまざまなサービスをこれまで支えてきた。業界で無名と書いたが、私が無知なだけだった。