資生堂が3年前に手放した「ツバキ」の意外な現在地

ファイントゥデイはドラッグストアなどで馴染み深いブランドを多数展開している(撮影:今井康一)

「ツバキ」「ウーノ」「フィーノ」――。かつて資生堂の看板で名を馳せたブランドを引き継いだ企業、ファイントゥデイが株式上場に向けて準備を進めている。

資生堂は2021年、ドラッグストア等で展開する低価格帯の日用品ブランドを投資ファンドのCVCキャピタル・パートナーズに1600億円で売却した。中・高価格帯のスキンケアを軸とする戦略に舵を切ったためだ。ファイントゥデイはこの一連の過程で設立された。資生堂は現時点で株式の20.09%を保有している。

ファイントゥデイはこの3年間、資生堂から工場など生産設備を引き継いだほか、経営企画や人事など会社に必要な組織を一から作り上げてきた。2023年度の売上高は1000億円超、営業利益は100億円超で、業績は堅調に推移している。

ファイントゥデイの主戦場は成熟市場である日用品の領域だ。資生堂の看板なしに、これからどう戦っていくのか。

様変わりした国内シャンプー市場

まず狙うのは国内シャンプー市場でのシェア拡大だ。シャンプー市場は、ここ数年で激変している。

P&Gの「パンテーン」やユニリーバの「ラックス」といった大手の低価格帯ブランドに代わり、「ボタニスト」「アンドハニー」といった新興メーカーによる1500円程度の高価格帯の商品が主役に躍り出たのだ。

新興メーカーに共通するのは、工場を持たないファブレスメーカーで、商品企画やマーケティングに優れていることだ。例えば2020年に上場したI-ne(アイエヌイー)は、睡眠中のケアに着目した「YOLU(ヨル)」でシェアを大幅に拡大。SNSを軸としたマーケティングで、若年層の需要を取り込んでいる。

対して、ツバキを含むマスをターゲットにした低価格帯の市場は縮小傾向にある。資生堂時代に「日本の女性は美しい」というコピーのテレビCMで注目を集めたツバキだが、現在、かつてのような存在感はない。

そこで、ツバキでは手薄だった高価格帯に攻め込むべく、ファイントゥデイは今年2月、独立後初の新ヘアケアブランド「+tmr(プラストゥモロー)」を本格的に立ち上げた。

髪の80%を占めるタンパク質成分のケアに注目したブランドで、香りやデザインにもこだわり、パッケージはリサイクルPETを使用するなど環境への配慮も打ち出している。

発売に当たり、下準備には特に力を入れてきた。以前のように最初からマスをターゲットにしたテレビCMを打つのではなく、新興メーカーに近い手法で若年層への認知拡大を狙ってきた。

2本柱で新興メーカーと勝負

今年2月にドラッグストア等で全国展開するまでの3カ月間、SNS上のキャンペーンを実施、インフルエンサーを集めた発表会や原宿での体験型ポップアップイベントを行うなど、入念に周知徹底を進めてきた。

流通面でも、ユーザーの口コミを強みとするコスメサイト「アットコスメ」で先行発売し、品質のよさや商品の特徴を丁寧に伝えたことで「発売直後から軌道に乗せることができた」(小森哲郎社長)という。

今後は高価格帯がプラストゥモロー、低価格帯はツバキという2本柱の体制でシェア獲得に挑む。

最近のシャンプー市場は目新しい商品が続々と投入され、消費者に特定の商品を購入し続けてもらうことは難しい状況だ。新興勢に遅れを取らず、着実にリピート客を獲得していくことが焦点となる。

中国を軸に展開する海外の拡大もポイントになりそうだ。ファイントゥデイの海外売上高比率はすでに5割を超える。資生堂が海外進出を進める際の「先鋒隊」が低価格帯の日用品事業だったからだ。しかし、十分な投資がなされず、新商品に乏しいという課題もあった。