「クリエイティブなアイデアを発想する」というと、誰も思いつかないようなラディカルな企画を出したり、奇想天外で自由な頭の使い方が求められる気がして身構える人もいるかと思います。
もちろん、空をつかむようなところから、いわゆる「ゼロイチ」でアイデアをひらめくことができる人は本当に稀有で、私もあこがれてしまうのですが、実は事業を打開するアイデアの多くは、セオリーにのっとって生み出していくことができます。決して一部の才能豊かな人だけの特権ではありません。
キーワードとなるのは、インサイトの対となる概念である「プロポジション」です。プロポジションとは、「消費者のインサイトに対する、企業やブランドから消費者への提案」という意味で、発掘した消費者インサイトを満たしてあげられるような提案のことを指します。
例えば、カリフォルニア牛乳協会の例(前回記事『「客の声、反映しても売れない」悩む人に欠けた欠点』)では、「牛乳を飲みたくなるのはクッキーを食べて口がパサパサしたとき」だという消費者のインサイトに対して、「お菓子やクッキーで水分を持っていかれた口を潤すために牛乳を飲みませんか」という消費者に対する提案(プロポジション)があり、そのプロポジションを具体化したアイデアとして「Got Milk?」キャンペーンがありました。
あるいは、リキッド・デスの例では、インサイトとして発見した「クラブでペットボトルの水を飲むのはダサくて恥ずかしい」という感情に対して、「ワルく水を飲みませんか」というプロポジションがあり、その具体的な商品としてエナジードリンクのようにいかつくて不健康なデザインのミネラルウォーターがあったというわけです。
このように、インサイトと表裏一体の存在としてプロポジションがあり、プロポジションの延長線上に具体的なアイデアが広がっていくのです。
ここまでの話を総合した事例として、私たちが取り組んだプロジェクトをひとつご紹介しましょう。
2022年、「Sleepy Tofu」という台湾の若者に人気のマットレスブランドが日本に上陸しました。台湾では感度の高いミレニアル世代を中心に爆発的にヒットしたプロダクトですが、日本にはすでに多くの新興マットレスブランドが群雄割拠しており、日本市場ではなかなか存在感を示すことができません。
他のマットレスブランドは、いずれもマットレスのスプリングやポケットコイル、スポンジの構成や配合を説明しながら「睡眠の質を高められる」「身体をしっかりホールドすることで腰痛や肩こりを軽減できる」「良質な睡眠や姿勢の改善によって日中のパフォーマンスを高めることができる」といった具合に、マットレスを通じて仕事の生産性を高めることを訴求するのが主流となっていました。
もちろん、Sleepy Tofuのマットレスも、スプリングやスポンジの配合に独自のこだわりを持っていますが、他のマットレスブランドと同じ訴求軸で戦っても、広告投資額が多く、すでに国内で広く認知されているブランドにはとうてい敵いません。