Vチューバー事務所、大盛況「フェス」で意外な明暗

幕張メッセで開かれたホロライブのフェス
幕張メッセで3月中旬に開かれたホロライブプロダクションの大規模フェス。前年の倍近い来場者数を記録した(記者撮影)

今や日本のエンタメ業界の牽引役となったVチューバーの勢いは、どこまで続くのか。

Vチューバー事務所「ホロライブプロダクション」を運営するカバーは3月16~17日にかけて、幕張メッセ(千葉市)で大規模なエキスポ・フェスを同時開催した。チケット販売をベースにした来場者数は2日間で8.6万人超におよび、前年の約4.5万人を倍近く更新した。

同イベントの関連収入として、カバーは前2023年3月期に約18億円を計上した。今期はそれをはるかに上回る売り上げ貢献が期待されている。

会場には、遠方からの旅行客とみられる参加者も数多く見られた。中でも目立っていたのが、外国人ファンの多さだ。アジア圏に限らず、アメリカやブラジルからの参加者の姿もあった。

海外のアニメ人気がVチューバーに波及

「2020年頃からホロライブの配信を見ており、仕事の前後などで週2回程度視聴する」。日本で働くアメリカ人のデービッドさん(30)は、ホロライブの動画視聴が習慣になっているという。

幕張メッセで開かれたホロライブのフェスの様子
ホロライブのフェス会場では、参加者の長蛇の列が。外国人客の姿も目立った(記者撮影)

デービッドさんに限らず、海外のVチューバーファンの多くは、日本アニメのファンでもあるという点で共通する。旅行で来日したインド人のサヒルさんは、1週間後に開催されるアニメイベント「Anime Japan 2024」にも参加する予定だったが、そちらは「チケットが買えなかった」と残念がった。

「7年前からアニメを見ていたが、この2年ほどでVチューバーのファンにもなった」というサヒルさん。ユーチューブの「切り抜き動画」を中心に、日本語を話すVチューバーの動画も視聴しており、日本語を少しずつ理解できるようになった。

海外でのアニメ人気拡大の影響が、Vチューバー業界にも波及している様子が見て取れる。

外国人の多さに加えて、衝撃的だったのはグッズ販売の盛り上がりだ。

会場内にはグッズ販売専用の巨大エリアが設けられ、グッズを買い求めるファンが長蛇の列を作っていた。応援するVチューバーのぬいぐるみを買いそろえたり、大量の缶バッジでリュックを装飾したりする「推し活」が、こうした購買力を強力に下支えしている。

Vチューバーの推し活グッズ
ファンの「推し活」がフェスの関連収入を押し上げている(記者撮影)

異様な盛り上がりを見せるVチューバー業界。しかし、ここに来て不安材料も見え始めている。

カバーの競合で、Vチューバー事務所「にじさんじ」を運営するANYCOLORは3月14日、2024年4月期の第3四半期決算を発表した。グッズ販売の拡大を軸に、売上高・営業利益ともに前年同期比で約20%の成長となった。

ところが発表翌日、同社の株価はストップ安水準にまで急落した。第3四半期の累計決算は増収増益だった一方、直近四半期(2023年11月~2024年1月)だけでみると、売上高は前年同期比4.7%増、営業利益は同20.1%減に落ち込んでいた。これまで急速に成長してきただけに、市場の高い期待を下回ったとみられる。

昨年末のフェスでは赤字が拡大

直近の業績が伸び悩んだ要因の1つとなったのが、昨年12月に2日間開催された「にじさんじフェス」だ。会社の説明によれば、フェスによる収入自体は前年と比べ5割近く増加したものの、「関連費用の想定以上の上振れ」によって赤字が拡大し、全社の営業利益率の低下を招いたようだ。

もともとANYCOLORは、利益率の高いグッズ販売やプロモーションで先行してきた。前期実績では売上高に占めるグッズ販売とプロモーションの割合は、カバーが52.2%であるのに対し、ANYCOLORは72%だった。結果的に営業利益率でも、カバーが16.7%、ANYCOLORが37.1%と、倍以上も差が開いている。