ある業界関係者は「通常の営業利益率が40%近い水準にまで上がっているANYCOLORにとっては、コストがかかるフェスの規模が大きくなるほど、利益率が下がってしまうのだろう」と指摘する。その点、カバーはフェスの開催が収益性にマイナス影響を与える可能性は相対的に低いといえる。
フェスの採算悪化以上に、今回の決算で不安視されたのが、英語圏向けのVチューバーグループ「NIJISANJI EN」の苦戦だ。前期のNIJISANJI ENの全社売上高に占める割合は25%に達し、この先会社の成長を牽引すると期待されていた。しかし、直近の売上高は前年同期比で24.6%の減収となっており、収益柱であるグッズ販売が落ち込んでいる。
ANYCOLORの釣井慎也CFO(最高財務責任者)は3月14日に開かれた決算説明会で、前期に「特定商材が非常によく売れたこと」の反動が減収の一因としつつも、「NIJISANJI ENは少し課題がある。成長に向けての安定的な事業体制の構築が必要だ」と述べた。
会社によれば、研修などの体制構築が追いついておらず、新規Vチューバーのデビューが遅れている状況にあるという。今後は中長期で活躍できるVチューバーを輩出するために「スケジュールの遅延やコンプライアンスの課題が起きないような体制作りを進めていく」(田角陸代表)。
NIJISANJI ENをめぐっては、今年に入って“炎上事態”も起きている。ANYCOLORは2月、NIJISANJI ENに所属していたVチューバー「セレン龍月」について、「度重なる契約違反とSNS上での誤解を招く虚偽の言動」を理由に契約解除に踏み切った。
しかし、契約解除を発表したIR資料上での「当社業績に与える影響は極めて軽微(negligible)であります」という記載に、海外のファンから批判が殺到。後日、同社の田角代表がユーチューブ上で英語での謝罪動画を投稿する事態にまで発展した。
「推し活」はファン、Vチューバー、事務所の絶妙な信頼関係の下に成立しているだけに、こうした水を差すような事態は今後の活動に影響を及ぼしかねない。
決算説明会ではこの「炎上」の影響についても質問が上がった。田角代表は「予定していたコンテンツの提供の延期が発生している」と明かしたうえで、「今後、NIJISANJI EN全体を盛り上げていくような施策をしっかりと展開していくことで、ファンとの信頼関係を再構築していく」と強調した。
2022年に上場したANYCOLORの時価総額は、その翌年に上場したカバーと比べて一時は2倍近い規模にあったものの、今回の株価急落を受けて急速にその差が縮まってきている。いよいよ業界内での競争が激化するフェーズに突入したのかもしれない。
苦戦するANYCOLORを横目に、カバーはさらなる海外展開拡大に踏み切っている。3月12日には、同社初の海外拠点をアメリカに設立すると発表した。
説明会に登壇した谷郷元昭社長は「北米エリアにはMD(グッズ販売)収益やライセンス契約のポテンシャルがあり、今後の収益規模拡大が期待できる」と意気込んだ。同拠点では、現地のニーズにあったコンテンツ開発や、現地企業とのタイアップなどを進めていく計画だ。
急成長が続くVチューバー事務所は今後も株式市場の高い期待に応えられるのか。大きなポテンシャルを持つ海外市場開拓の成否がカギを握っている。