どうすれば「思わず〇〇してしまう」ような魅力的な商品を生み出すことができるのでしょうか?
そのために必要なキーワードは、「インサイト(insight)」です。マーケティング用語として聞いたことのある方もいるかもしれませんが、実はインサイトの定義はまだ定まりきっておらず、十分に要点が理解されていない例も見られます。
私の考えでは、インサイトとは、消費者の行動原理やその背景にある意識構造を見抜いたことによって得られる、「人々の無意識下にある、消費行動を刺激するスイッチ」のことです。消費者のインサイトを刺激する商品開発や販売促進を行うことで、購買意欲を喚起することができます。
そのためには、「この人はこういうインサイトを持っているのではないか?」という仮説を持って世の中を眺めることが大切になってきます。
人の意識はよく氷山に例えられます。自分自身で認識している(=海面から見える)顕在意識はほんのごく一部だけで、その他の大部分はほとんど自分自身でも何が起きているかよく説明できない(=海中に潜んでいる)潜在意識によって構成されているといわれています。
特に、情報量の多い現代社会においては、人々の行動原理は多様化・複雑化しており、自身の行動の背景や動機を整理して分かりやすく説明することはほとんど不可能に近い状況です。
例えば何か買い物をするときに、「なぜそれを選んだのか」を毎回論理的に説明できるでしょうか? おそらく、「なんとなく」選んでいることが多いのではないかと思います。
あるいは、とある旅館に宿泊した大学生に「なんでこの宿を予約したの?」と尋ねても「価格が手頃で、客室が綺麗で、食事が美味しそうだったから」といった凡庸な答えが返ってくるだけでしょう。往々にして人は、自分がどのような潜在意識に突き動かされて行動しているかを正確に認識できていないのです。
そのうえ、人の心理は正直でもありません。そこにはしばしば「本音と建前」の二重構造があります。人は誰しも自分をよく見せたい、よく思いたい生き物ですから、認識している自分の感情と、本当の感情にはギャップができてしまいがちです。
例えば、上記の大学生が旅館を選んだ本音の感情としては「仲居さんがいたり、部屋食が出てくるような旅館に恋人と泊まるのが大人っぽくてあこがれるから」かもしれません。その深層心理には「余裕があって大人っぽい自分を恋人に対して演出したい」「甲斐性がある人だと思われたい」という願望があるのかもしれません。
あるいは、恋人をちょっといいレストランに連れて行くとき、顧客は「美味しい食事をしたい」「恋人を喜ばせてあげたい」「思い出をつくりたい」と自分では思っています。
しかし、その潜在意識の中には「単価の高い食事をご馳走しておくことで、将来起こるかもしれないトラブルを回避したい」「自分の誕生日や記念日にはもっといいレストランに連れて行ってほしいので、それとなく期待水準を伝えたい」といったインサイトがあるかもしれません。