老舗書店が創った「絵本グッズ」という新たな市場

そこで有効なのが、「私は誰か」「私は何を知っているか」「私は誰を知っているか」という3つの問いです。組織を単位として考えるなら、「私たちは」と言い換えても構いません。丸善の篠田氏に当てはめれば、次のようになるでしょう。

・私(たち)は誰か……企画開発の経験が豊富な丸の内本店の店長。老舗書店でありながらフロンティアとしての文化を創造してきたというアイデンティティ。
 
・私(たち)は何を知っているか……人に足を運ばせる絵本のコンテンツの力。ものづくりともの売りの知識と経験。
 
・私(たち)は誰を知っているか……出版社とその先にいる作家。絵本の世界観を愛し、理解している人材。
 

これらの資源をもとにすぐに行動できる事業アイデアが、「EHONS」だったのです。

このようにエフェクチュエーションでは、手持ちの手段で「何ができるか」という発想に重きを置きます。これまでの経営学、あるいは経営の現場では、目的を起点に「何をすべきか」というアプローチが主に用いられていました。

しかし、絵本の世界と高度に融合したグッズという、これまで存在しなかった事業や市場を新たに創造するような場合、最初から目的や、それを実現するための機会が明確になっているとは限りません。こうした不確実性が高い環境においても、目的ではなく手段に着目していち早く行動を起こせば、想像もしない出会いやフィードバックの機会が得られることを「EHONS」のケースは示しています。

次回は、エフェクチュエーションの5つの原則のうち、「許容可能な損失の原則」「クレイジーキルトの原則」「パイロットの原則」の3つの視点から、丸善丸の内本店の取り組みを見ていきます。

(構成:相澤 摂)