邦画実写史上最大規模となる2600館以上の北米公開へと拡大し、最終興収は5641万ドル(現在の為替レートで約84億円)を超え、邦画実写で歴代最高北米興収を記録した『ゴジラ-1.0』。
「第96回アカデミー賞」では邦画として初めて視覚効果賞にノミネート。これまで国内市場のみが主戦場だった邦画実写にとって、異例の記録ずくめの快進撃になっている。
その背景にあるのが、昨年7月に東宝が設立した新会社TOHO Globalの存在。『ゴジラ-1.0』の北米配給を担った子会社Toho International, Inc.と連携を取り、自社配給第1弾となった本作で大きな実績を作った。
東宝の新たな海外戦略の第一歩となった今回の挑戦と、日本映画界の世界への距離を近くした意義について、TOHO Global代表取締役社長の植田浩史氏に聞いた。
東宝は、2022年に発表した長期経営計画「TOHO VISION 2032」のなかで、4つの成長戦略キーワードのひとつに「海外市場の開拓」を挙げていた。
その具現化策として、それまで社内の国際部が担っていた東宝グループの映像コンテンツビジネスにおける海外事業展開を、TOHO Globalを設立して移管した。
その立ち上げを指揮した植田氏は、別組織にすることのメリットと狙いをこう語る。
「創業90年の東宝は、国内で盤石な体制を築いている一方、海外に関してはまだまだ新参者です。そうしたなか、複雑な事情のある海外マーケットを日本から遠隔操作で動かすのは効率が悪い。
海外をこれから先の柱に据えるのであれば、現地のスタッフが機動的に動けて、日本側がしっかりと状況を把握していることが大切です。連絡を密にして、1つの組織としてガバナンスを利かせながら連携していくことを理念にスタートしました。
この先の東宝の海外事業の成長において、重要なステージに位置づけています」
そんな東宝が海外での自社配給に踏み切ったのが、『ゴジラ-1.0』の北米公開だ。現地の劇場ブッキングは、TOHO Globalの在米子会社Toho International, Inc.が担い、IMAGICAグループのPixelogicが業務をサポート。邦画実写として最大規模の2600館以上という公開館数まで拡大した。
その結果、北米興収は5641万ドル(約84億円)を少し超えたところ(2月1日で公開終了)。邦画実写としては、『子猫物語』(1329万ドル:約20億円)を大きく上回り、34年ぶりに記録を塗り替えて歴代1位に。
アジア実写映画としても、5300万ドル台の『パラサイト 半地下の家族』(ポン・ジュノ監督)や、『HERO』(チャン・イーモウ監督)を抜いて歴代1位。
外国語実写映画としては、1億2800万ドル台の米・中・台・香の合作『グリーン・デスティニー』(アン・リー監督)、5700万ドル台の『ライフ・イズ・ビューティフル』(ロベルト・ベニーニ監督)に次ぐ3位となる快進撃となった。
そんな記録的北米ヒットの要因を、植田氏は4つ挙げる。
「ひとつは、ゴジラというキャラクターのファンの土壌ができあがっていたこと。高い認知度を含めて北米での下地を築いてこられた先人に感謝しなければなりません。2つ目は、山崎貴監督による作品のすばらしさ。この作品力がもっとも大きな要素です。
3つ目は、全米脚本家組合と全米映画俳優組合のストライキがあったことで、本来であればクリスマス前の有力作品が立て込む時期に作品数が少なかったこと。大作を求める劇場のニーズにうまく組み込めました。