最後の4つ目が、Toho Internationalによる自社配給です。劇場ブッキングに限らず、eコマースも含めてゴジラファンと双方向コミュニケーションを大切にしてきた歴史を活かして、戦略的にファンとのつながりを作っていきました」
かつては、英語字幕の映画はヒットしないとも言われていたが、英語吹替版がない『ゴジラ-1.0』は、字幕版のみの公開で定説を覆すヒットになった。その背景には、北米でもコロナ禍でグローバルプラットフォームでの配信視聴が一般的になり、韓国ドラマを含め、さまざまな外国作品を字幕で見る文化が浸透していたことがある。
一方、ハリウッド版ゴジラである『ゴジラvsコング』(2021年)の北米興収は1億ドルを超えている。今回の『ゴジラ-1.0』の北米ヒットが日本では大きな話題になってはいるが、北米で日本版ゴジラはまだまだマイナー映画であり、ハリウッド大作並みの認知度を得ているわけではない。逆にいえば、この先の伸びしろは大きくあるということだろう。
そうしたなか、『ゴジラ-1.0』が「第96回アカデミー賞」視覚効果賞にノミネートされたことは大きい。それだけでも北米における影響は大きいが、もし受賞すれば、VFX技術を含めた日本映画への見方や位置づけが大きく変わるに違いない。今年のアカデミー賞授賞式は、日本映画界が注目している。
今回の『ゴジラ-1.0』の北米ヒットが日本映画界にとって意義があるのは、日本の映画会社である東宝が国内も北米もワンストップで配給を手がけて、大きなヒットにつなげた点だ。
『ゴジラ-1.0』は東宝単独出資であり、北米配給権を自社で保有していた。今後は、製作委員会出資の作品でも、東宝が国内配給だけでなく、海外配給の窓口を担う作品が増えていくかもしれない。
それによる日本映画のメリットは大きい。市場を国内だけでなく、国内と北米をひとつとして見ることができるようになれば、そのぶん市場規模が大きくなり、制作予算も増える。
そうなると、企画を含めた作品づくりそのものが従来と変わってくる。そしてその先には、全世界を市場に見据えた作品づくりがデフォルトになる、日本映画の未来があるかもしれない。
そうして見ると、東宝の本格的な自社海外配給のスタートは、日本映画界にとっての1つの歴史の転換点と言えるかもしれない。これからは、東宝が海外配給を請け負う独立系映画会社の作品も出てくる可能性もあるだろう。
「実際にいろいろな意味でのお声がけをいただいています。今回『ゴジラ-1.0』で起きたことは、まさに日本映画界にとって、北米市場がいままでほど遠くないという感覚を持っていただくのに、ちょうどいいと思っています。東宝としてそういう強みをこれから発揮させていくことになります。そういうお仕事をさせていただける機会があれば、どんどん広げていきたいです」
さらに、マーチャンダイジングなど配給だけでない北米展開が可能になる点もTOHO Globalの強みになる。
「ファンを大切にすることが、いろいろな形で最終的にビジネスになって、リターンにつながります。そういう意味では、配給に限らず、eコマースやファンコミュニティーなども含めてファン層を拡大していくことに視点を置いて展開していきます。それが作品価値の最大化につながり、お互いにとってのメリットになります」
一方、現地での実業務を担う海外オフィスは、現在はロサンゼルスにあるToho International, Inc.の1カ所のみとなり、自社配給も北米のみ。今後は、アジア、欧米など世界進出を見据えている。