AIのもたらす雇用の脅威に関してさまざまな側面から検討がなされた結果として、これまで定説となっていたのが、
「AIによって仕事はなくならない。なくなるのは仕事の生産性を妨げてきた無数の“面倒な業務”である」
という説です。面倒な業務が軽減されることで、AIを仕事の武器として活用できる未来がくる。AIとの共生の時代にはわれわれの生産性は大幅に上がる、というのです。
ひと言でいえば、人類はAIと共生しながらより大きな繁栄の時代を迎えるというのが、2022年までの未来予測の主流でした。
2022年末、そこに登場したのが、生成AI初の実用ツールと言うべきChatGPTでした。定説のとおりであれば、私たちの仕事の生産性はChatGPT時代には格段に上がります。
何かを検索するというそれなりに面倒な手間がなくなれば、仕事や生活での生産性は大きく変わるでしょう。
今のChatGPTはまだおもちゃのように感じるレベルかもしれません。ただ、生成AIは機械学習が急速に進むので、ChatGPTの性能はこの後、指数関数的に向上します。
たとえばいずれ、営業会議ではAIがリアルタイムで議事録を文字起こしするようになるでしょう。さらには、会議が紛糾したら、そこでいったんChatGPT(現在の最新バージョンであるGPT?4からGPT?8ぐらいになっているかもしれません)に、「ここまでの議論、どのように意見が対立しているのか要約して」と言えば、何が論点で、どこで意見が分かれているかをAIがまとめてくれるかもしれません。これまでの不毛な議論の時間は一気に消滅するでしょう。
また、数年後の経営コンサルタントは、ChatGPTに向かって以下のような質問入力を繰り返すことになりそうです。
「A社をとりまく経営環境をざっくりと整理してほしい」
「A社のX事業の競争相手となる主要企業を挙げてくれ」
「それら主要企業について強み、弱み、現在の戦略をそれぞれ整理して」
「X事業の競争環境を変化させる要因について重要なものを5つ説明して。新技術、消費者の変化、海外企業の参入、原材料の入手経路などどのような要因でもいいので」
こういった質問をChatGPTの有料版AIであるGPT?4につぎつぎと投げかけていけば、それまでコンサルティングファームの中で5~6人のチームが数カ月かけていた基本分析は、極めて短時間でAIが代わりにやってくれることになります。その頃には音声入力を用いることで、対話形式でこのやり取りができるようになるでしょう。
そうなると、コンサルタントと、クライアントである大企業の経営者はともに、これらAIが生成した「現状分析と課題」のレポートに目を通したうえで、初日から「じゃあどうすればわが社は生き残れるのだろうか?」といった具体的な議論に入れます。このイノベーションは、それまで6カ月かかっていた経営戦略策定のプロセスを数週間に短縮してくれることでしょう。
これが定説の「AIと共生する未来論」なのですが、そのような未来は生産性以外の部分で悪影響はないのでしょうか。