しかも、データサイエンスが有用なのはスポーツコーチに限定した話ではありません。どの産業においても、昨今は経験豊富な現場のみが会得していた知見が、続々とデジタルに変換されています。
テクノロジーの進化によって、広く深い多種多様なデータを大量に収集できるようになりました。また、例えばグーグルアナリティクスのような分析ツールも充実し、安価に使えるようになっています。データを活用し、データサイエンティスト的な思考ができるようになれば、ビジネスにおいても提供できる価値の質は格段に上がります。
これからのデータ活用は一部の大企業や、テクノロジーに明るい企業だけに限ったものではありません。中小企業や、これまではベテランの勘と経験のみに頼っていたデータ活用とは一見縁遠く見える伝統産業などにおいても、データを活用することで、ビジネスの判断をより安定的、かつサステナブル(持続可能)にスケールする時代がすでに到来しているのです。
では、この潮流から私たちビジネスパーソンは何を学べるのでしょう。今からでも大急ぎでデータサイエンスの高度な分析スキルを習得すべきでしょうか? それも素晴らしいですが、ハードルは少々高いように感じるかもしれません。分析手法は常に進化していくもので、その意味で時代ごとのトレンドと見ることもできます。
「データ分析」でネット検索すれば、構築済みのデータ分析サービスや分析プラットフォームがすぐに見つかります。しかも、すでに世に出ているサービスのいくつかは、データサイエンスの専門知識が豊富でなくても使えるように設計されています。
ビジネスパーソンがまず学べることは、データサイエンスの思考法です。「自ら仮説を立て、検証する」プロセスを繰り返す思考はどのような環境下でも通用するサステナブルなものです。2020年代を生き抜くビジネスパーソンにとっての必須項目は、自ら仮説を立てて検証する、すなわちデータサイエンス思考を身につけることです。あなたが今どんな仕事をしていても、どんなポジションについていても、何歳であっても、です。
その思考法を足掛かりとして、さらに興味があればそこからデータ分析の具体的なスキルの習得に進むことも可能でしょう。
では、「自ら仮説を立てて検証する」データサイエンス思考を身につけるためには何から手をつければよいでしょうか。
まず、ステップ0として提案したいのは、「餅は餅屋」精神を捨て去ることです。システム開発をITベンダーに丸投げする感覚で、「データ分析も専門家にまかせておけばいい」と自分や自部署から切り離していては、いつまで経ってもデータ感覚・データサイエンス思考は身につきません。
「自分の領域ではない」と決めつける思考から脱却し、数値やデータを読み解く専門人材であるデータサイエンティストを、ビジョンを共有する対等なパートナーとして捉えましょう。
その上で、データサイエンス思考の素地となるのは、データに向き合う基本姿勢=データリテラシーです。専門人材と協働しながらビジネスパーソンとしてのデータリテラシーを鍛えるために、次の「3つの問いかけ」が普段のビジネスで実行できているかを一度あらためてチェックしてみてください。
まずは今あるデータをもとに事実確認と一旦のデータ活用の目的設定を行いましょう。あなたが新商品の開発担当者であれば、顧客は誰なのか、競合他社と比べてどのような位置にいるか、既存商品のどこに課題があるのか、を精査することが初めの問いになるでしょう。